例えばそれが、当たり前であったならば。

隣が寒い、と思ってイギリスは背筋を震わせた。
色の悪い指先を見つめながら、ぱふぱふとまだ温もりの残る左隣りをイギリスは叩く。ドアが閉まる音で起きたイギリスは、その体温の持ち主がどこに行ったかくらい知っている。

(…朝メシ作れるようなもん、あったっけ)

頼まれてもいないのにイギリスの家へ泊まる度に三食おやつ付きなんて甘い条件を実現してくる恋人は、だからきっと、勝手知ったる隣国の家で堅物な家主も頷く朝食を作っているのだろう。アイツは俺と違うから、と悲観することはしない。もうそんな我が儘を言う時期は終わったのだ。得意なことは得意な人に任せる。それが二人で決めた、約束だ。
ああ、でも。
昨日、三ヶ月振りにあった恋人は酷く疲れた顔をしていた。こんな時くらい、寝てたっていいのに。イギリスが思うのは、身勝手ではないだろう。
それに。

(…たまには、起きた時、隣にいてほしい)

そうでないと、昨日の夜まで感じていた熱が、嘘なのではないかと錯覚してしまう。
そう心の中だけで呟いて(こんなこと本人がいなくても、決して口に出したりはできない)、イギリスはごろんと寝返りを打った。ベッドに残された昨夜の熱の名残を、回収してやろうなんて思って。
寂しい、悔しい。そんな感情ではなくて、ただ。
そこにある恋人の一部を、全て逃したくないという、独占欲。
ああちくしょう。

「もっと寄越せ、…フラン」

ぬるいんだよ、ばか。
言ったイギリスはふと立ち上がって、良い匂いをさせている、広い背中がいるはずのキッチンへと向かったのだった。

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