「ハグ」
「前戯としてなら」
「痕つけるのは?」
「程々に」

じゃあ、そうだな。

「キスは?」



遠い過去の記憶をなぞるだけでは変わらないことをわかっていながら、それでも思いを馳せるのは、心というものが存在するからだろうか。フランスは静かに目を閉じた。厄介なことばかりを連れて来るそんなもの、なくなってしまえばいいのに。そうすればこうやって、痛い思いを、しなくていいのに。

「じゃあな」

これからは、ただの、隣国だからな。
言って手を離したイギリスは、フランスの肩をぽんと押した。体温の高いイギリスの手から解放されたフランスは、ぞわぞわと這い上がってくる寒さに目を細める。抱きしめることなど到底出来ない手は、ただ冷えていくのを待つばかり。
ここで二人がもし、恋人で、そして別れを決意した、というなら、きっとフランスはイギリスの細い腰を引き寄せただろう。でも、そうじゃない。そうじゃなくて、二人は恋人なんかじゃなくて。

「また、俺みたいな都合のいい男を探すの?」

何百年も、身体を重ねるだけの不毛な関係をまた、誰かに望むの?
問うたフランスにイギリスはくすりと笑った。てめーに関係ねぇだろう?言葉じゃなく表情で、そう言われた気がした。
そうだなぁ。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。まだ、決めてねぇよ、ンなこと」

もしかしたら、お前が最後かもしれない。
そう呟いたイギリスに、フランスは思いっきり顔を顰めた。そんなの、また次の人を探すと言われるより残酷だ。
そっか。無理矢理紡ぎ出した声はきっと、震えていた。

「ね、イギリス」

最後に、いいかな。
ずいと顔を近づけたフランスは、らしくない真剣な目をしてイギリスに問う。見慣れたエメラルドが大きく開いて、一瞬だけ、言葉を失った。

「………だめ、だ」

それは、だめ。
イギリスは言って、フランスの視線から逃れるように踵を返した。その線だけは、越えてはいけないんだ。揺れたイギリスの声が、もう、遠い。

ああなんてこった。フランスは小さくなるイギリスの背中を見つめながら呟いた。
何でも知ってるはずだったのに、知らないことなど、何もなかったはずなのに。
イギリスの唇の味さえ、フランスは知らないのだ。


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