「ん」

唇を突き出してフランスが目を閉じるから、イギリスは最近ハマったばかりの推理小説のページを繰る手を止めた。
ん。んって、なんだ。頭にあからさまな疑問符を浮かべながら、とりあえずハードカバーの角で額を小突くと、フランスは不満げに眉を寄せる。

「んー、ん、ん」

どうやら言葉を失ってしまったらしい恋人は、薔薇の香りがする指でイギリスの頬をさわさわと撫でた。触れるか触れないかの距離、くすぐったいと一蹴すれば、フランスは肩を落とす。
わかりにくい求愛は、イギリスの嫌いなものの一つだ。言うならはっきり言えよばかぁ、と、フランスの頬をひっぱたいてやりたいくらいに。

「ん」

跳ね退けられた手で自分の唇を指差して、フランスはイギリスにずいと顔を近づけた。
ねぇ、ちょうだいって。わかってるくせに。
まともな言葉を紡がない唇の代わりに、雄弁な双眸が責めるように細められて、イギリスはうっと喉を詰まらせた。
そう。わかっていない、わけではないんだ。
それでも見て見ぬフリを続けたなら、フランスは怒るだろうか。泣くだろうか。そう考えて、イギリスは心の中で笑った。
そんな選択肢、ありはしないのに。

「…仕方なく、だからな!」

別に、俺がお前とそうしたいとかじゃなくて、ただ単に、お前が、うるさいから!
言ったイギリスの顔が赤くて、フランスは思わず吹き出してしまいそうになった。うるさいって、俺、ん、としか言ってないのに。

「…目、閉じろ」

恥ずかしいから。
イギリスは俯いてそう言って、フランスの肩に手を置く。
大人しく、愛すべき女王様のお気に召すのままにフランスがその海色を閉じるから、イギリスは満足げに笑った。

そうして重なった唇は、いつもより熱いような気がして。
イギリスはフランスが瞳を開けていることに、気がつかなかった。




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