優しくするのは、優しくされたいから。
泣かないのは、泣かれたくないから。
じゃあ何。

愛するのは?

フランスは手を伸ばして、イギリスの頬をまるで壊れ物を扱うように撫でた。
ぴくりとイギリスが居心地悪そうな目をするから、フランスは小さく苦笑する。
こうしてフランスがイギリスに触れるのは、そうして欲しいからだろうか。フランスにはわからないけれど、きっとそうなのだろうと思う。だってフランスの心は、こんなにも乾いている。優しい雨を恋人の手に望んでいたとしても、不思議はない。
こうして愛おしくて仕方ないのも優しくしてあげたいというのも、もしかしたら全部全部エゴで、利己心の顕れなのだと思えば、フランスはとてつもなく醜い存在だ。それに気づかない周りが愚かなのではなく、きっと、気づかせない自分が狡猾なのだ。それくらい言われなくても知ってるさ。

「坊ちゃん」

愛してるよ。
血反吐を吐きそうなくらい汚い自分が、とろけるような声でイギリスに囁くのを、フランスはどこか他人事のように聞いていた。こんな傲慢な感情は、愛じゃない。愛されたいから愛するなんて、そんなの馬鹿げている。
そう思うのに、フランスはイギリスを"愛する"ことをやめられない。

「…フランス」

イギリスが呼ぶからフランスは顔を上げた。イギリスの声はフランスとは正反対で、乾いてなどいない。それだけで自分も満たされた気になるのだから、フランスはなんだか自分が酷く情けなかった。
そんなことをおくびにも出さず、フランスは首を傾げてイギリスの頬にキスを送る。何、なんだい、俺の愛おしい人。
そんなフランスにイギリスはぎゅっと唇を噛み、泣きそうに顔を歪めた。
フランス、フラン、俺は、知ってる。

「お前は嘘つきだ」

嘘つき、とイギリスはもう一度言って、涙の溜まった目をフランスに向ける。
フランスは何も反論出来なかった。する必要もないのだろうと思った。
だからフランスは代わりに、イギリスを抱きしめる。ごめん、ごめんな。
謝った瞬間に、イギリスのエメラルドの瞳から、ぼたりと悲しみの雫が落ちた。

泣かれたくないのにイギリスが泣くのは、きっとフランスが泣いているからだった。

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