簡単で。
でも、すごく難しい。

ぺたりとフランスの胸に耳を当てると、どくんどくん、一定で心地好い鼓動の音が聞こえてくる。
温かくて、もう一度眠りの中に誘われそうになるから、イギリスは慌てて目を開いた。
この甘やかされるみたいな温かさが、イギリスはとても好きだ。
いつだってこうしていたいのだけれど、まあそこはそれ、そう簡単にはいかない。だから、少しでも長くフランスの体温を感じていたい。と、思う。
フランスもイギリスも、国としてこの世に在るのだから。いつも、どんな時も、私情を優先させる訳には、いかない。
何百年経っても変わらない寝顔は、それこそお気楽で。愛おしい。口には出さないけど、きっとお互いわかっている。

(…子供みたい)

あどけない寝顔にイギリスは苦笑して、フランスの柔らかい髪の毛を指に巻き付ける。
ああこの髪が、いつだって好きだった。大きな手も、今は見えない海色の瞳も。ずっとずっと、好きだった。
腕を伸ばしても届かないと思ってたフランスの胸の中にいるのが幸せで、何となく泣きそうになる。なんて、自分もばかになったものだ。

(好きだ)

(愛おしい)

(…絶対言って、やらないけど)

狂おしいほどの想いを込めて、規則正しい寝息を吐き出す唇に軽く口付けた。
途端びくりと震える睫毛に、イギリスは笑う。やっとお目覚めか。
ん、と呻いて開いた瞳が、いつもと変わらないことが嬉しくてイギリスは口角を上げた。

「おはよう。俺のdearest」

いつものフランスを真似てそう言うと、寝ぼけ眼のフランスがひくりと喉を鳴らした。なんだよ。おい。

「どうしたの、モン・トレゾール」

なんかいいことあった?
そんな的外れなフランスの言葉に、イギリスは仕方なく乗ってやることにした。
ああ。いいこと、あったよ。

「だって、お前が今日も、俺の隣にいる」

それだけでイギリスは、幸せだ。
フランスはああそうね、と眉尻を下げて。

「じゃあ俺も幸せだ」

と言って笑った。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -