お互い忙しいねと言えば、別にと応えられる。素っ気なく聞こえるその言葉にも、当然は裏はある。だってフランスの電話の相手は、他の誰でもないイギリスなのだ。
好きの代わりに嫌いと言い、嫌いの代わりに大嫌いと言うことが常であるイギリスの、だからそんな言葉を冷たいとはもう思わなかった。
フランスは、恋人にはすこぶる優しい男だ。無論、人はそれを甘いと嗤う。
それでもイギリスを可愛がることをやめないフランスは、自分が馬鹿であることくらい、とっくの昔に気づいている。そう、イギリスへの恋心をはっきりと見つめた、その時からずっと。

「一日が、五十時間くらいあればいいのに」

そしたらアートに会えない日も、目減りするのに。
言ったフランスが、まるでベッドの中で事に及ぶ時みたいに低い、情欲に塗れた声を出すから、イギリスはうっと喉を詰まらせた。赤くなっているはずの頬に届くことを願って受話器に小さくキスを施せば、ばかぁ!と耳を劈く常套句。

「…俺は嫌だからな、そんなの」

一日が五十時間もあるなんて。
イギリスは言って、受話器に続くコードをくるくると指に巻きつける。だって。

「一日は一日しか進まないから」

お前に会えない時間が五十時間もあるなんて、気が狂っちまいそうだとは、言わなかった。それでもフランスに伝わっているだろう。
甘い、甘い、そして聡い男だ。

「…会いたい」

フランスが言うのと、イギリスがそう言ったのとは、同時だった。それは謀ったようでもあり、また、決してそうではないような、絶妙なタイミングだった。
イギリスは驚いた。フランスも、また。
それが溢れ出したのは同じで、だから二人は思ってしまった。

二人を隔てるこの距離が、消えてなくなれば、いいのに。

不謹慎だけど、思ってしまった。



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