ああ、酔った勢いって、やつ。
ぽわんと蕩けた目で見つめられ、フランスはどきりと胸を高鳴らせた。
甘い毒が心臓のど真ん中に打ち込まれたみたいに手先が痺れて、ぎこちない動作でイギリスの頬を撫でるフランスは、痛いみたいな悲しいみたいな顔をして、問う。アートはさ。
「いま好きな人とか…いるの?」
二人しかいない、蒸し上がってしまいそうなくらい暑いバーは、呟くようなその問いすら相手の耳に届けてしまう。
億劫そうに目を細めたイギリスは、ああ、と蜜色の髪を少しだけ震わせた。
「いる」
言ってフランスを見つめたイギリスは、ふ、と小さく息を吐く。酒の所為で潤んだ瞳がまるで欲情しているように見えて、フランスはまたどきりと胸を鳴らした。
で?と、イギリスは机に突っ伏した顔を少しだけ上げる。
「そういうお前は、どうなんだ」
「…え?」
素っ頓狂な声をあげたフランスにイギリスは少しだけ気分を害したように眉を寄せ、好きな奴だよ、と大して興味もなさそうに欠伸を一つ。
「好きな奴。いないのか」
そう問うたイギリスは綺麗なエメラルドをぱちくりと開いて首を傾げる。
愛の国が好きな奴一人もいないのかと詰られた気がして、フランスは肩を竦めた。
「…いるよ」
フランスは言って、さわさわとイギリスの髪を撫でる。くすぐったそうに身をよじるイギリスは、フランスから視線を逸らして唇を噛んだ。
「……、どんなやつ」
気のせいか、より一層潤んだように見えるイギリスの瞳に浮かされて、フランスはぽわり頭に靄がかかっていた。だから、言ってしまった。数百年、隠していた、想いを。
「俺の右側で、酒呑んでる眉毛」
言ったフランスはじとりイギリスを見つめた。世界中の光を集めたみたいにきらきらして見えるイギリスの目が、ぱちりと開かれる。
なぁんだ。奇遇だな。
「俺も、俺の左側で酒呑んでる髭が、好きなんだ」