愛が足りないだとか、なんとか。

殴られた頬を押さえて、フランスは溜め息を吐いた。
気難しいお姫様の機嫌をまた、損ねてしまったらしい。気に入らないとすぐに手が出るフランスの恋人は、お姫様と呼ぶには少々横暴すぎたが。
それでもフランスにとっては、大事な大事なお姫様なのだ。
あんねぇ、坊ちゃん。

「顔はないでしょ顔は」

お兄さん泣いちゃいそう。
フランスの言葉を受けて潤んだ瞳を上げたフランスの恋人ことイギリスは、しかしすぐにぷいっと視線を逸らしてしまう。
しらねぇよ、ンなこと。

「てめぇが隙だらけなのが悪ぃんだろ」

フランスの目を見ることが出来ないイギリスは、震える声でそう宣った。
自分に非があることをわかっている時のイギリスは、いつだってこの調子である。意地を張るのはやめられないし、高いプライドは邪魔をするしで素直に謝ることの出来ないイギリスは、駄々をこねる子供みたいに厄介だ。
しかしそんな厄介なお姫様は、愛にまみれた男の恋人なのである。他でもないフランスの、唯一なのである。
フランスはなにもかもわかったように頷いて、イギリスの腰を引き寄せた。途端、飛んでくるのは愛を語らう言葉などではなく、一瞬のブレもない、拳。

「ちょ、なにすんの!」

先程と反対側の頬を殴られたフランスが身も世もなく叫ぶと、イギリスは肩で息をして、真っ赤になった顔を上げた。
てめぇが、てめぇが悪いんだ!

「てめぇが、すきだらけにさせるから!」

言ったイギリスにフランスは、なーんだ、と納得してしまった。
そういうことならね、俺のお姫様。

「もっともっと、好きだらけにしてあげるよ」




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