境界なんて、なくなってしまえばいいのに。
愛だとか恋だとか、絵空事みたいな言葉を言わなくても想うだけでちゃんと、伝わるようになればいいのに。
心の底から欲しいものが手に入った時の喜びを、イギリスは知っている。心から愛していたものを手放す時の辛さも、孤独というものの寂しさも。痛いほどに知っている。
対して、フランスはなにも知らないのだとイギリスは思う。だからこういうことが言えるのだ、とイギリスは肩を竦めた。
「俺とお前の境界が、こうやってる間に癒着して、一つになれればいいのに」
至極真面目な顔をしてフランスが言うから、イギリスはいかにも不愉快そうに唇を尖らせた。ばかじゃねぇのか。そんなの、俺は絶対に嫌だ。と言って、フランスの手の甲を抓る。
「もう、ひどいよ坊ちゃん」
俺はただ、お前とずっと、一緒にいたいだけなのに。
言ったフランスは悲しげな顔をしていて、イギリスはげんなりと眉尻を下げた。本当に、フランスは何一つわかっていない。
お前と一つになんて、絶対なりたくない。だって。
「一つになったら、俺とお前の境界かなくなったら、俺はお前ともう、こうして触れ合えない」
そんなの、俺は御免だ。
お前はそうじゃないのか、と言外に詰れば、驚いたように見開かれる目。そして少しして、赤く染まる頬。
なんだよ、それ、そんなの。
「最高の、殺し文句じゃない」
言葉にしないと伝わらない、そんなもどかしい関係が良いと言ったイギリスが、どうしようもなく愛おしくて。
フランスは馬鹿みたいに赤面して、決して一つになれないイギリスの唇に、噛み付くようなキスを落としてやったのだった。