沈んでいけばいい。
かこんと音を立てて、浴槽の底に落ちる。
真っ黒くなった画面から、アイツの声が聞こえた気がした。
どことなく憮然とした顔をしてるな、と思って問うと、案の定刺々しい声が降ってきた。
いや、(背的な問題で)物理的に言うと降ってきた、ではなく、投げ掛けられた、なのだが。
「昨日は何してたの」
電話、出なかったでしょ。
あまりにも予想通り、何ともお約束な質問だったので、
(ほら、きた)
俺は呆れてしまった。セオリーに擬えてしか話せないのか、と。
かくいう俺も、そのセオリーとやらにしたがって動いてやるつもりなのだから、どうしようもないと思う。
「お前に関係ないだろ」
ふい、とそっぽを向いて、そのまま踵を返す。ああ、この先の展開も知ってるよ。
そこで腕を掴むんだろ、フランシス。
頭が沸騰してしまったんだと考えて、俺は眉を寄せた。頭から爪先、それこそ全身隈なく与えられた快楽が、びりびりと身体を焼く。
全てが決まっている道筋通りに進んで、今俺は、フランシスに抱かれていた。
場所は俺の家で、しかしベッドで正常位、なんてノーマルなセックスじゃない。
獣みたいに、貪られる。
「ふ、や…ぁあっ、ん…」
汗ばんだ背中、もっとピンポイントに言うなら肩甲骨に、フランシスはがりりと歯を立てた。キスマークなんて、生易しいものじゃない。
血が滲んで、ぼろり、涙が落ちる。
「坊ちゃん、知ってた?」
至極淡々とした、夜伽の中で出すべきではない声音。フランシスは分かってやっている。
それを知ってるから、俺も至極淡々と「なんだよ」と返した。まあ途中で最奥を突かれて声が裏返ったから、フランシスからすれば酷く無様な返答となったのだけど。
「肩甲骨ってね、羽根の名残なんだって」
「っ、」
言ったフランシスの歯が、再度肩甲骨を抉ったから、俺はびくりびくりと背を反らして達してしまった。「あーあ」なんて馬鹿にしたような声が、落ちる。
「…難儀だね。坊ちゃんは。こうでもしないと素直に泣けないなんて」
堕ちていく意識の中、俺はセオリー通りじゃないフランシスの言葉を聞いた。
「愛してるよ、」
きっとフランシスは見つけるだろう。
水を並々と張った風呂場に沈む、俺の携帯電話を。