フランスは一流の料理人だ。
国でもあり、美と愛の代名詞であるらしい彼の手から生み出される料理の数々は、いつだってイギリスの胃袋を鷲掴みにして放さない。どんな時代だって、例え派手な喧嘩をした後だって、フランスの手料理を前にすると、イギリスの腹の虫は切なげに声を上げてしまうのだ。

イギリスは百年ほど前まで、大変な偏食家であった。
そのつい五年ほど前に紆余曲折を経て二人は恋人という関係に落ち着いたのだから、付き合い始めの頃、フランスはイギリスのあまりの偏食っぷりに舌を巻いた。
昔から好き嫌いの激しい奴ではあったが、まさかフランスの手から離れて、こんなにも目も当てられない状態になっていようとは。
だから五年をかけて、フランスはイギリスの食生活を、徹底的に改善した。
国風を変えるのではなく、まして味音痴な舌を根本から変革しようというのではない。ただ単に、イギリス個人の体調を心配してだ。イギリスの体調が悪ければ、国内も荒れる。あるいは、その逆なのかもしれないが。
とかく、用心に超したことはない。
イギリスの好き嫌いは、ほとんど食わず嫌いだ。ならばそれを治すのは簡単な話。美味しいものを食べさせてやればいいのである。
幸いそれはフランスの得意分野であった。加えて、可愛い恋人が自分の手料理を食べてくれるのだ。張り切らないはずもない。

おかわり、と控え目な声が上がって、フランスは思わず口元を緩めた。
イギリスの味覚をフランスが使う全ての食材に慣れさせるのは骨が折れたが、それでも今、イギリスはフランスの料理を文句一つ言わずに食べる。
美味しい?と聞けば、悪くはない、と素直ではない返事をするイギリスが、実はキッチンに、その日作って欲しい料理の食材を置いておくのを知っている。
はいはい、かしこまりました坊ちゃん。
言って、フランスは席を立つ。そしてふとイギリスを振り返った。

「ね、美味しい?」

当然イギリスはこう答える。

「悪くは、ない」



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