笑うのなら、そうしてもいい。
ご覧の通り、それでも世界は止まらない。
やだなぁ、と掠れた声で呟いて、フランスはイギリスの目尻をべろり舐め上げた。
力無い指でイギリスの頬にかかった髪を掬いって、凭れ掛かるようにキスをする。
ねぇ、坊ちゃん。
「笑ってよ」
いつもみたいに馬鹿な奴って、笑って。
ともすれば懇願のようにも聞こえる呟きをイギリスの耳に吹き込んで、フランスはふと息を詰めた。
おねがい、坊ちゃん。言ったフランスに、ふるりイギリスは悲しげに首を振る。
やだ、フランス。おれ。
「好き、あいしてる、から、」
ひとりに、すんなよ。
イギリスは吐き出すように言って、フランスの胸にしがみつく。濡れていくシャツを感じながら、フランスはばかだなぁと呟いた。最期になって素直になるなんて、卑怯だ。そして、そうさせた自分も、また。
「うん、」
震えるイギリスの頭をぽんぽんと叩いて顔を上げさせたフランスは、ふわりと笑う。
消えるなんて、当然本望ではない。それでも、イギリスが後を追うなんてもっと御免だ。
ごめんね、アート。
「好きだった。あい、してた」
これから、隣がさみしくなるね。
でも、ごめん。勝手だけど。
「生きて、俺のこと、わすれないでよ」
言って、唇に温もり一つ残して。
ふわり、消えた。