きゅるきゅる、引っ掻く音がしたんだよ。

出して、と心の中の何かが言ったから、フランスはほとほと困り果てた顔で服越しに自らの左胸を強く掴んだ。
静か過ぎる部屋は呼吸をするだけで喉が焼けてしまいそうなくらい暑くて、くらくらと麻痺した頭では浮かんだ悲痛な言葉が、何を意味するのかわからない。そこに何が隠れているのか、フランスは知らない。それでもフランスは彼らしくない真剣な顔で、ふるり首を横に振る。
何となく、そうしなければいけない気がした。
この胸にある何かを、決して外に出してはいけない気がした。
どんどんと、心の中にある扉をその何かは叩く。出して、ここから、出してよ。厳重に鍵のかかったそこは、開かない。どれだけ合わない鍵を差し込んでも、出られない。
フランスはだめだよ、と小さく呟いた。お願い。

「ここから、出ないで」

だって、そうすれば、気づいてしまう。
フランスは無意識にそう言って、深く、魂まで抜けるような溜め息をつく。
幽閉されてる何かの正体を、フランスは多分誰よりも知らなくて、そして多分誰よりもよく知っていた。
でも、だめ。まだ、見ないフリが出来る。
フランスは眉間に皺を寄せた。と、その時、ぱたぱたと走る音が聞こえて、開けっ放しの部屋のドアから、ひょこりとイギリスが顔を出した。

「紅茶、入れてやったぞ」

言ったイギリスはいつもの通り「べ、べつにお前の為じゃなくてだな、これは我が国の紅茶がどれだけ旨いかをお前に思い知らせる為で、つまりは俺の為なんだからな」なんてよくわからない意地を張っていたが、フランスはそれどころではなかった。
ぽかんと口を開けて、イギリスを見つめたまま動かない。
常にはないフランスの様子に、照れ隠しをつらつらと並べていたイギリスは怪訝そうに首を傾げる。

「おい、」

どうした?
言ったイギリスはフランスの顔をまじまじと観察して、少し心配そうに肩を揺すった。
フランスはそれに何の反応もしないで、驚いたように目を見開いたまま、ぽつり呟く。
どうしよう。

「鍵が、合っちゃった」


フランスの中で、幾重にも連なった鍵が、かしゃんと落ちる音がした。

そこから覗いたのは、




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