蒼で制して連れてって
ひらり、お姫様みたいに舞う雪を捕まえて、イギリスは眉をしかめた。なんだよ、つめてぇ。
毎年自作する手袋をつけていない手はいやに赤くて、触っても感覚が既にない。吐き出す息は白く、まるで自分が機関車になったみたいだ、と自らの下手な比喩に、イギリスはますます不機嫌なていになる。
「なに、どうしたの坊ちゃん」
さくさく、真っ白なキャンパスに足跡を残すことだけに専念していたフランスが、不意にイギリスに笑いかけた。五歩は先を行っていた道のりを、引き返してくる。
「さむいの?」
言ったフランスだって鼻も頬も赤い。それなのにフランスは自分のマフラーをイギリスの寂しい首元にかけてやる。
それだってイギリスの手作りのはずなのに、フランスの体温を充分に吸った毛糸の塊は、湯気が出るほど暖かい。
「でも、」
お前が、さむいだろ。
言ったイギリスが自分には少し長いマフラーを突っ返そうとする。これじゃあ何のために編んだかわからない。他でもないフランスを、暖めるために作ったんだ。
イギリスが音にしない言葉を、フランスはちゃあんとわかっているようで、ふるり緩く首を振ってマフラーを解くイギリスの手を制した。
いいの、お兄さんは。
「アートの身体で、あっためてもらうんだから」
にこりと笑ったフランスに、愛らしい恋人が放ったのは愛の言葉などではなく、大英帝国時代から変わりもしない鋭いアッパーカットであった。
また、来年も、変わらずに。
百年先も、変わらずに。
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あけおめ小説でしたー。