黒と、白。
それだけの、世界。
ぐるぐる、渦を巻いた白い息に、イギリスは目をしばたたかせた。
特に珍しくはないその現象に、しかしイギリスはきらきらと瞳を輝かせて手を擦り合わせる。
「なに、坊ちゃん子供みたい」
そうからから笑う声が聞こえたから、イギリスはふと顔を上げた。モノクロな世界の中で寒さに鼻を赤くしたフランスが、なんだか馬鹿にしたような表情をしていたから、イギリスは少しむっとして、うるせーばかと呟く。
別に、先程からなんとなく感じているもどかしさを、解って欲しい訳じゃない。
「…邪魔すんな」
そっけなく言い放ち、イギリスはくるりとフランスに背を向ける。
真っ黒な世界に映える白が、なんとなく、物悲しく思えたから。
イギリスは子供みたいにぱくぱくと口を開けて、すぐに消えてしまう小さな雲を、ただただ見つめていた。
イギリスの前にあるのは、黒、白、そして。
「ねぇ、坊ちゃんってば」
胸がきゅうと締め付けられそうなその感覚を否定するかのように向けられた、青。
澄み渡った空のような、深い青に、イギリスは眩しそうに目を細めた。
昔から。昔から、そうだ。
フランスはイギリスを、黒白の世界からいとも簡単に掬い上げる。
「キス、していい?」
いつもはそんなこと聞かない癖に、フランスは小首を傾げてイギリスに問うた。
当然イギリスは、答えない。
それでも、イギリスの無言は、肯定とほぼ同じ意味を持つ。
フランスは、イギリスに、これでもかというほど緩慢な動作で、キスをした。
壊れ物に触れるような優しい口付けの後、フランスは、はは、と乾いた笑いを零した。
「坊ちゃんの唇、かっさかさ」
言ったフランスは悪戯っ子みたいな顔をして、イギリスの頬を撫でる。
そりゃ、冬だからな。イギリスはそう答えて、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
それにもフランスは笑って、イギリスを腕の中に招き入れた。
坊ちゃんのほっぺた、赤いよ?そう、言って。
指摘されたイギリスは、耳まで赤くなって、
「そりゃ、冬だからな」
と答えるのだった。