笑わせんな。
そういったイギリスの表情を、フランスはもう覚えていない。
慈愛が博愛に変わって、そこから発展した偏愛は見事に狂愛へと変貌を遂げてしまった。
それを後悔してもいないし、まして後戻りなど望んでもいない。時々正常に働いては痛みを残す良心に、大きなお世話だとフランスは溜め息を吐いた。
お誂え向きな世界の中で。
聞き慣れた鳴き声は多分、目の前の存在から発されたのだと思う。何度も繰り返されて麻痺する、こういう現象には確か名前があったような気がするのだけど、と、フランスは苦笑した。
空気が揺れたのを察したのか、フランスの視線の先で貧弱な身体が震える。
「ほら、坊ちゃん?」
早くしてよ、と言ったフランスの瞳は笑ってなどいなくて、坊ちゃんと呼ばれたイギリスは、涙を落とした。禁欲的に上まで留めたシャツのボタンを、ぼたり、濡らす。
嗚咽が響いて、フランスはしゃがみ込んでイギリスと目を合わせた。くい、と顎で示す。
「……っ、ぅ」
促されたイギリスは、先程自分の悲しみの塊が濡らしたシャツのボタンをゆるゆると外し始めた。
露になる白い肌に、フランスはにこりと笑った。見飽きるほど眺めたその肌にじゃない。イギリスが自分の意思でファイアウォールであるシャツを、脱いだからだ。
禁欲の象徴であるボタンを、取り外して。
「アーティ」
満足げに頬を上げたフランスはイギリスの手首を取る。そのまま床に縫い付けて、噛み付くようなキスを施した。
余裕がない訳じゃない。むしろ余裕がないのはイギリスの方だ。
絡めとられた自らの舌に、フランスは笑った。
「、ぁ……ふぁ、あ…っ」
熱くなる身体を持て余して、イギリスはフランスに縋り付く。捕らえられた、心で。
フランスは、イギリスのスラックスの前を寛げた。
フランスはイギリスがして欲しいことを概ね分かっている。それだけの話。
「ぁ、…フラン…シィ…っ」
早く、と、腰を揺らすイギリスに、フランスは苦笑一つ。
淫蕩だね、この子猫ちゃんは。言ったフランスは濡らした指をぷつり、後孔に挿入した。
フランスは前戯を欠かさない。傷つけることを、したくないから。
「アーティ、」
この鳥籠は、坊ちゃんには狭すぎないかな?
フランスは問う。甘い声を上げる、イギリスに向かって。
熱に浮された瞳は焦点が合っていない。しかしもし聞こえていなかったとして、フランスは満足だった。
自由を主張する翼をぐちゃぐちゃに折って、もぎ取ってしまえたのだから。
フランスは、指を抜いた。
ねぇアーティ。問いながら、自らをイギリスへと挿入していく。
「俺に飼い殺されるのは、どんな気分?」
それも返事を期待した問いじゃない。
しかしイギリスは、にんまりと三日月型に口を歪めた。
『最ッ高の気分だよ、クソ髭』