そちらの言い分も、確かにごもっともではある。
だが、それがどうしたというのだろう。
求めたのは決して、こんなものではなかった。考えて、イギリスはこめかみ辺りを強く押さえた。
つきんつきん脈打つように痛む頭を、眉をしかめるだけで意識の外に置き、イギリスは震える喉で深呼吸をする。
まるで広い海の中で、服を着たまま泳いでるみたいだ、とイギリスは前髪を自身でくしゃり乱す。
乱れているのは、自分の心の方だ。ノイズが入り混じる思考の中で、混線模様の感情が荒れ狂う。それが止むことを願い、祈り、信じ、イギリスはとうとうそいつを直視してしまった。
ああ、どうしよう。イギリスは呟く。
「好き、だ」
これ以上を考えられないほどに、狂おしいほど愛おしい。
自覚をすれば後は早い。真っ逆さまに落ちていく、がらがらと足元が崩れ落ちて立ってなどいられなくなる。
そして、その手を掴めるのは、一人。
「イギリス!」
イギリスを呼び止めたのは、振り向く必要もないくらい、知りすぎた声だった。
歩く時の、独特な体重の乗せ方。焦った時に少し裏返る声音。一度嗅いだら離れない、香水の香り。
イギリスはそれらを、ずっとずっと、知っていた。
「…………フランス」
イギリスはうわごとのように呟く。
肩で息をしているフランスを、いつものように笑うことが出来なかった。怖いくらいの感情の波が、どうしてもいつも通りに振る舞うことを、許してくれなかった。
全身が痛いくらいに、叫ぶ。
「、フランス…あの、な」
ぐるぐるととぐろを巻くその想いを何とかしたくて、イギリスは口を開いた。
その瞬間、イギリスはフランスの腕の中にいた。
「好きだ」
迷いもなくフランスがそう言ったから、イギリスは目を見開く。
乾いた目尻がみるみる涙で濡れていき、もう視界すら定かではなかった。
ずるい。イギリスはぽつり、言う。
「それは俺の台詞だ、ばか」