ぼたり、床に落ちた血液へ、イギリスは焦れったいほど緩慢に舌を這わせた。ゆっくりと喉が上下に動いて、鉄臭い液体を嚥下する。その、どこか扇情的な仕草を見ていたフランシスは、しゃがみ込んで鮮血に濡れる手首をアーサーの目の前に差し出した。
「…いらない」
眉を潜めたアーサーに、フランシスは何も言わずに自らの血液を奨める。飲め、舐めろと、促す。
それでもアーサーは首を横に振った。何度も何度も。
「あのねぇ、坊ちゃん」
飲まないと、死んじゃうんだよ?
言ったフランシスはアーサーの口元に手首を近づけた。唇がルージュを引いたように赤に染まって、しかしそれをアーサーはカタカタと震える手で振り払ってしまう。
「坊ちゃん」
窘めるようにフランシスがアーサーを睨むが、アーサーはふいと視線を逸らすだけ。フランシスは溜め息をついた。
「あのねぇ、坊ちゃん」
いい加減にしないと、俺、怒るよ?
言ったフランシスは真っ直ぐにアーサーを見つめて、お願い、と小さく呟いた。
なにかに怯えるように震えたアーサーの肩を包み込んで、フランシスはぎりり奥歯を噛む。
ねぇ、坊ちゃんが俺を心配なように。
「俺だって、坊ちゃんが心配なんだよ?」
だから、お願い。
フランシスは宥めるようにアーサーの背中を叩いて、柔らかに揺れる金髪を掻き上げた。
アーサーはぶるぶると唇を強く噛んで、そして。
「ごめ、ん」
フランシスの色白な首筋に、牙を立てたのだった。