ふと、気づいた。
気づいたら、もう、どうしようもなかった。
「…何しにきたの?」
特に用事があった訳ではない。仕事だって、いつも口実にしているスコーンの御裾分けだって、今日はない。
ほとんどその身一つで二人を隔てる海峡を渡ってきたイギリスに、しかしてフランスは呆れたように腕を組んだ。何?何か用?
言ったフランスに、イギリスは口ごもる。だって、何も用意してこなかった。
「なに、って」
ただ、お前に会いに。なんて、そうは言えないイギリスは、無意識に目を伏せ、俯いてしまう。
二人はお互い国家であるから、国内のことで忙しければすぐにすれ違いが起きる。それを寂しいと思うことは不謹慎だとイギリスは考えるから、思うように動かない口がなくても、言えなかっただろう。寂しかった。会いたくて会いたくて、仕方なかった。そんな弱音。
「何?ほんとに何にもないの?」
言ってフランスが首を傾げるから、イギリスはきゅっと唇を噛んだ。
何も、ほんとに何もない。ただ、口実も忘れてしまうほど、フランスに会いたかった。
しまった、と思った時には、一足遅い。ぼたり、涙が頬を伝うのを、イギリスは到底止めることが出来なかった。
「なんで、」
なんでそんなこと言うんだよ!
ひくひくみっともなく鳴る喉で無理矢理そう紡ぎ出して、イギリスはフランスに殴りかかった。
なんだか、酷く惨めな気分で、どこかに逃げ出してしまいたいと思った。
しかし予想に反して、その拳がフランスを射抜くことはなかった。
「俺さ、結構我慢してたんだよ?」
凶悪なイギリスの拳を包み込んで、フランスは情けない顔をする。
だって、こんなに触ってなかったら。
「坊ちゃんのこと、抱き壊しちゃうかもしんないじゃん?」
言ったフランスが酷く不甲斐ない顔をしてたから。
イギリスはフランスの頭を抱きかかえた。
「俺はそんなヤワじゃねぇよ」
やれるもんならやってみやがれ。
言った表情だけは素直な恋人に、フランスはくらくらと獣のようなキスをした。