ああもうダメだ。イギリスはそう呟いて頭を抱えた。
もう人気のない、国会議事堂の廊下。当然ふにゃりとへたりこんだイギリスにその理由を聞く者など、一人もいない。
イギリスは自嘲の笑みを零す。
それは人気がないとはいえ、いつ誰がくるともしれない場所で不様に座り込んでしまっていることに対してであり、そして他人には到底理解できないであろう、ほんの些細なことでそうなってしまったことに対しての、嘲笑。
多分、イギリスは知っている。
自分がこうして心を痛めていても、何も変わらないということを。
(俺がどう足掻いても、)
世界は、廻る。
いつだって言い聞かせていたことを胸の中でそっと繰り返して、イギリスは自らの髪をくしゃり乱す。
知ってる。俺は、ちゃんと。
確認するように何度もそう、声にはせずに呟いて、イギリスは顔を上げる。
そこには、あるはずのない影があった。
「……フランス」
なんで。どうして。
形にならない疑問符が落ちて、イギリスはふるり肩を震わせた。
ああ、やばい。思った時には、もう遅い。
「…なんで泣くの」
困り顔をしたフランスが、視線を合わせるようにしゃがんでイギリスの頭を引き寄せた。
全くの抵抗を見せずにフランスの胸に納まったイギリスは、拙い暴言を吐きながら、フランスの背中をぽかぽか叩く。
ばか。ひげ。しんじまえ。
「そうだね、うん。でも、」
俺が死んじゃったら、坊ちゃん泣かなくなるでしょ。
言ったフランスは、イギリスの肩に頭を乗せて、笑う。
「辛いとか、寂しいとか、誰にも言わなくなるでしょ?」
「それが嫌だから、俺は死ねない」
「死ねないから…ずっと坊ちゃんの傍にいるよ?」
それだけは、覚えてて。
フランスがそう言ったから、イギリスはこくり、頷くしかなくなってしまった。