こつん、と苛ついたようにアーサーが机を小突いたから、フランシスは誰にもバレないように溜め息をついた。
とは言っても、熟れきったトマトのような夕日が沈んでいく教室が照らし出すのは、フランシスとアーサー、たった二つの影のみ。

ばっかじゃないの、とフランシスは言って、まるで頭痛でもするかのように額に手を当てた。
幼なじみとも言う腐れ縁は、ドアにもたれ掛かったフランシスに一瞥もくれずに目の前に積まれた書類にさらさらとペンを走らせている。まるでそう言われることくらい予想の範疇だとでも言うように。
そんなアーサーにただただ呆れたように肩を竦めたフランシスは、それが当たり前であるかのように、アーサーの隣に腰掛ける。
あんねぇ、アーサー。もしかしたら気づいてないかもしれないけど。

「それってただ体よく使われてるだけだからね?」

それを頼られてると言うのは些か強引が過ぎるよと、フランシスはアーサーの顔をちらり見遣った。いつもと変わらない端正な顔が、いつもと変わらない無表情を浮かべている。強いて感情を凪いでいるようにも見えるアーサーの頭に、フランシスは黙って手を置いた。
撫でる訳でもなく、ただ置いてあるという風体のフランシスの手に、アーサーはようやく顔を上げた。
特徴的な眉を寄せ、不機嫌そうに、自らの頭に置かれたフランシスの手を叩き落とす。

「さっきからごちゃごちゃうるせーんだよ」

それだけ言ったアーサーは、ぷいっとそっぽを向く。
ぷるぷると震えたアーサー自慢の万年筆の先っぽが全てを代弁してくれているようで、フランシスは何だか笑えてしまった。意地っ張りなアーサーはきっと、押し付けられたとわかっていてもそれを断ることなどしないし、ましてや自分からそれを手伝って欲しいなどとは言えないだろう。なぜなら何度も言うように、アーサーは意地っ張りなのだから。
それでも。
それでも天下の生徒会長様が、あのご自慢の柔らかいソファーではなく、わざわざフランシスが帰ってくるはずの教室の味気ない椅子に座っていた訳が、フランシスにはちゃんとわかっていた。
時々面倒なアーサーの性格も、こうなってしまえば可愛いものである。

「手伝いますよ? …俺のお姫様」

故意に掠れた声でアーサーの耳にそう吹き込んでやれば、途端に染まる頬が可愛くて。
フランシスは満足げに微笑んだ。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -