痛くない。痛くない。

フランスの腕を掴んだイギリスは、頬を伝う生暖かい雫を拭おうともせずに、強くフランスを睨みつけた。
フランスはそんなイギリスに目を細めて、溜め息を吐く。

「…なんで泣くの」

意味わかんないよ、イギリス。
言ったフランスはいつものように笑ってなんかなくて、イギリスはぎゅっと唇を噛んだ。視線の先にあるのは、フランスの冷めた瞳だけだから、イギリスは何も言えなくなってしまう。フランスの名前を呼ぶことすら。そんなことすら、イギリスには出来ない。
ただ、指が白くなるほどフランスの腕を掴んで、イギリスはふるふると首を振る。

「…俺のこと、信じらんないって言ったのは…イギリス。お前でしょ?」

それなのに、フランスのその突き刺さるような物言いに、とうとうイギリスはフランスの腕からその手を離してしまった。
するり滑り落ちたその指を目で追うこともせず、フランスはイギリスの潤んだ瞳を見つめる。イギリスの、涙の膜が張ったそのエメラルドにはフランスの真剣そうな顔しか映っていなかったから、フランスはゆっくりと肩を竦めてみせた。

「ねぇ、イギリス」

俺、これでも怒ってるんだよ?
フランスが言い放ったから、イギリスはびくりと肩を震わせた。ぽたり、イギリスの顎から涙が伝い落ちて、フランスの手を濡らす。
フランスはそれを気にも留めず、イギリスの頬に手を添えた。

「…俺はね。これでも、精一杯お前を愛してるつもりなんだから」

言って、真っすぐにイギリスを見据えながらフランスはようやくフランスらしく、いや、それでもまだ哀しそうに、眉尻を下げてにへらと笑った。
それなのにさ、イギリス。

「信じて貰えなきゃ…お兄さん、寂しいよ」

言ったフランスにくしゃりと頭を撫でられて、イギリスは俯いた。
お前の愛が、信じられない。イギリスがそう告げた瞬間のフランスの表情が、真実だった。それがようやく、わかった。

「…ありがとう」

伝えたい沢山の言葉の中、ここで謝るのは違う気がしたから、イギリスはそう言って、憎い髭男の唇目掛けキスを撃ち込んだのだった。




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