ぐらり傾いだ身体に、絶望が覗いた。
忙しなく上下する胸を見ながら、ぎりり奥歯を噛み締めたフランスに、極東の友人はとうとう黙ってしまった。
何を言っていいかわからなかった訳ではない。ここで何か言葉を発するのが、場違いな気がしてならなかったからだ。
「なぁ、日本」
やがて重い重い沈黙を破ったフランスの呟きにも近い呼びかけに、日本はなるべく何でもない風に「なんでしょう」と小首を傾げて見せた。
そんな友人の態度に、フランスはぽつり落とす。
「お兄さんさ、」
ちょっと、悔しいかも。
言ったフランスの言葉が概ね予想通りであったから、空気を読むことに長けた友人は気づかれないように少しだけ眉根を寄せた。
「…ずっと、隣に、いたのに」
そんな日本の思いを気取ることもなく、フランスはくしゃり、目の前に横たわる恋人の――イギリスの頭を、労るように撫でる。
そうしたフランスの様子があまりにも気の毒に見えたから、日本は肩を竦めてフランスの俯いた顔を覗き込んだ。
「ねぇ、フランスさん。今は悔やむより先に、しなければいけないことがあるのではないですか?」
言って日本は、にっこりと笑う。
唖然とするフランスなど、見えないように。
例えば。…例えばですよ?フランスさん。
「目を覚ました時に王子様が手を握ってくれていたりしたら、お姫様はきっと、幸せな気持ちで目覚められると思うのです」
どうでしょう?
控えめな日本の笑顔が、あまりに悪戯じみていたので、フランスはたじたじといった風体で、投げ出されていたイギリスの手を握った。
「ほんと…いい友達を持ったよ」
俺も。坊ちゃんも。
そのフランスの言葉に、日本は「光栄です」と片目を瞑って見せた。