名前を呼ぶ。届かない。
腕を伸ばす。届かない。
心を込めた言葉ですら。それすら。
好きだ、とフランスが言ったから、イギリスはふるり、首を振った。
嘘つき。言ったイギリスの肩は小刻みに震えていて、フランスはじとり眉根を寄せる羽目になる。ああまた、坊ちゃんの悪い癖が出た。フランスはただただ、そう思った。
「……嘘じゃないよ、坊ちゃん」
嘘なんかじゃ、ない。
フランスは言って、俯いてしまったイギリスの顔を覗き込んだ。
おそらく潤んでいるであろうエメラルドを、見つめる為に。
自分が本気であることを、教えてあげる為に。
きっとそれはその場に於いて正しい行為だったのだろう。放っておくとすぐ不安定になる恋人を包み込む、フランスの好意。
だが如何せん、その行為は些か正しすぎた。
それが正しくないイギリスの態度を、まるごと否定する行為であることを。
フランスは多分、知らなかった。
「お前はっ、何も知らないんだ!」
イギリスはイギリスの背中を摩る為に伸ばしたフランスの腕をするり躱して、そう金切り声を上げた。
ぼたり、頬を伝った涙が、フランスの手を濡らす。
「俺は、もう、信じない」
俺に向けられる愛情を、信じられない。
言って踵を返したイギリスの手首を、フランスはとうとう、掴むことが出来なかった。