触ってよ。
そう、俺の心に。
壊す。壊れる。壊れされる。
かたかた震える肩はどうしてか一向にその動きをやめてはくれないから、イギリスはぎりり、奥歯を噛み締めた。
ああこれは、一体どういう感情だったっけ。イギリスは考える。
熱いような、寒いような。頭を芯から揺らされるような、そんな。
イギリスにはそれが、わからない。
忘れてしまったのか、元から知らなかったのか。それすらも。
イギリスには、わからない。
わからないから、手を伸ばした。
どれだけ痛い目をみてもまだ隣に在ろうとする、愚かな愚かな髭面に。
「どうしたの」
坊ちゃん。
言ったフランスは、イギリスの頭をくしゃり撫でる。
珍しく甘えん坊さんなんだね。フランスは笑って、するりと甘くて良い匂いがするお菓子を差し出した。
「さては坊ちゃん」
これ目当てだったな?
フランスはイギリスの頬に戯れみたいなキスをして、お兄さんどきどきして損しちゃったよ、なんて肩を竦めてみせた。
そうした一連の仕草がフランスの型にあまりにも綺麗に嵌まっていたので、イギリスは何も言わずにフランスの手から皿を引ったくる。
ああもう坊ちゃんったら。なんてぶつくさ文句をたれながら、それでも傍らにある温もりに、イギリスはぎゅうと胸を押さえた。ぐらぐら揺れる心が吐き出そうとする答えをふるふる首を振ってやり過ごそうとする。
ああ、ああ。
「フラ、ン」
ようやく落とせた言葉は何故だかフランスの名前で、イギリスは俯いて唇を噛み締めた。
自分が何を言いたいのかわからずに、ただただイギリスは上手く息が出来ないみたいに、はひはひと喘ぐだけ。
「…坊ちゃん?」
具合でも、悪いの?
言ってフランスが額に手を当ててくるから、イギリスは顔を上げてぼたり、一筋の涙を流した。
「あのな、フラン。フランシス」
涙で霞む視界に写るのはただ一人、驚いたような顔をしているフランスだけだったから、イギリスは濡れた頬を拭いもせずに、言った。
「あのな、フラン。フランシス」
「―――愛してる」