ああもう。
全くもって、笑えない話だよ。

フランスの恋人であるイギリスは、おおよそ日常生活に於けるどのような場面でも、決して素直に自分の気持ちを相手に伝えたりはしない。それこそイギリスの口から「フランスっ、好き好き大好き愛してる!」なんて聞いた日には、フランスは多分正気でいられないだろうし(勢いでドーヴァー海峡に身投げしてしまうかもしれない)、もしかしたら悪質な熱病を疑ってしまうかもしれない。もしくは「本物のイギリスを返せよ!」なんて見当違いなことを言ってしまうだろう。だって素直なイギリスなんて、偽者だ。フランスがそう思ってしまう程には、イギリスは素直ではない。

フランスはずるりと、背を壁に預け、しゃがみ込んだ。
何なんだよ、一体。ありえねぇ。
ぽつり、小さい声で呟いたフランスは、自らのくすんだ金髪をわしゃわしゃと掻き混ぜた。
フランス、と呼ぶイギリスの声が、ひどく遠く聞こえて、フランスはふるふる首を振る。

「ねぇ、それ」

反則だって、気づいてる?アーティ。
フランスは言って、イギリスの腕をぐいりと引いた。必然、フランスの胸にすっぽり納まってしまうイギリスは、顔を真っ赤にして、フランスの胸板をどんどんと叩く。

「意味わかんねぇよばかぁっ」

それより放せ、クソ髭!
イギリスがそう言うのは照れ隠しであるとフランスは知っているから、フランスは決してイギリスを放したりはしない。放したら放したで、うるさいのだ。全く、面倒な坊ちゃんだ。フランスは心の中で呟いて、イギリスの額にキスを贈ってやる。
それで大人しくなるイギリスがどうしようもなく愛おしくて、フランスはイギリスを抱く腕によりいっそう力を込めてしまう。
ばか。痛い。
言ったイギリスがどこか嬉しそうに見えたから、フランスはああもうほんとにコイツは、と頭を抱えた。全て無自覚なのだから、本当に性が悪い。

「…アーティ」

愛してる。ほんとに。
フランスは心からそう思ったから、イギリスにぼそり、そう囁いてやる。可愛くて暴力的なフランスの恋人は、照れ隠しのアッパーを愛おしい自らの恋人にお見舞いして、ぷいっと、そっぽを向いてしまったのだった。




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無自覚エロ大使さんが旧世界のお色気担当さんに何を言ったかは、ご想像にお任せ致します。




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