フランスは馬鹿な男だ。
イギリスはいつだって、そう思う。

可愛いな、なんて耳元で囁かれて、イギリスは一瞬にして目を吊り上げた。お決まりの素直じゃない言葉を投げつけて、フランスの背中をがりがりと引っ掻いてやる。
単なる照れ隠しであるそれは、やっぱり俺の恋人は可愛いななんてフランスに思わせる要因になるのだが、イギリスは到底そんなことには気づかない。
どころかそれがフランスを牽制するための有効な手立てであるとまで思っている。フランスはイギリスのどんな照れ隠しも、苦笑しながら(あるいはにやけながら)受け止めるからだ。

「…ばかっ」

可愛いなんて言われても、全然嬉しくないんだからな!
言ったイギリスの頬がものの見事に赤く染まっていたから、フランスは吹き出しそうになるのをなんとか堪える羽目になった。
ああもうなにこの生き物。ちょう可愛い。
フランスはイギリスの頬に軽いキスを幾度も仕掛けながら、細切れになった様々な賛辞を落とす。背丈はそう変わらないくせにすっぽりとイギリスを包み込んでしまえるフランスの腕の中で、イギリスは無駄を承知でじたばたと暴れた。こうなったフランスには、いつだって勝てた試しがない。単純な喧嘩ならば、ほとんどの場合イギリスの方に軍配があがるのにもかかわらず、だ。
とどめとばかりに唇を塞がれて、イギリスはじっとフランスを見つめた。
恋人の欲目なんかではなく、イギリスから見てフランスは(認めるのが癪ではあるが)、非常に整った顔をしている。
均整のとれた肉体、優しくて気の利く性格、器用な指先。どれをとってもフランスは文句なしにいい男なのだ。
それを、とイギリスは思う。
何故、自分はフランスの恋人なのだろう。
素直じゃないのは誰に言われなくても、自分が一番わかっている。貰っただけの愛を返すことなんて、言う事を聞かない口を持っているイギリスには到底出来るわけもない。
どこを好きになった?どうしてまだ隣にいる?
わかってなければ不安になる。一度慣れてしまった温もりを、手放すのはもうたくさんだ。
イギリスは、首を傾ける。

「フランス」

俺の、どこが、良い?
イギリスは言って、はたと目を見開いた。声に出すつもりなど、なかったのに。思っても、もう遅い。
フランスは驚いたように肩を強張らせたあと、柔和に微笑んだ。
例えば、例えばね、坊ちゃん。

「いきなり抱きしめたりちゅーしたら真っ赤な顔して怒る癖に、絶対に俺の手を離さないとこ。すぐ泣く割に、嬉しくても滅多に笑わないとこ。俺の作る料理を上手いって言って、幸せそうに笑うとこ。酔うと手が付けられなくて、料理下手で、エロ大使で、素直じゃなくて」

それでも。
フランスは言う。

「俺の事を、一生懸命愛してくれるとこ」

ね?フランスは微笑む。
鼻先にキスをされて、イギリスはみっともなく赤面した。
うぬぼれてんじゃねぇよ、このばか。
イギリスのそんな照れ隠しの言葉に、フランスはふふんと笑った。可愛いなぁもう。
フランスはやはり馬鹿なのだ。可愛いと連発するフランスにイギリスは思ったのだが。

そんなフランスに惚れたイギリス自身馬鹿であることなど、指摘されなくてもイギリスはちゃんとわかっていた。





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