何をしてほしいの、とフランスが問うから、イギリスはただただ首を横に振った。
フランスのその問いに、回答を用意していなかった訳ではない。むしろその答えというものはいつもイギリスの根幹にあるもので、こうして言葉に詰まることに、他の誰でもないイギリス当人が困惑している。
「…わかんない?」
自分が、何をしたいのか。何を、したくないのか。
わからない?そうフランスが問うから、イギリスはまたもや首を振った。わからないことがわからない。そんな、分別のない子供みたいなことを言うつもりじゃ、なかったのだけれど。
「……ね、」
坊ちゃん。
凜とした声が頬を掠めて、泣きそうになる。鼻の奥がつんと痛んで、イギリスは慌てて唇を噛み締めた。泣いてはいけない。イギリスは何故だか咄嗟にそう思った。呼吸が上手くできなくて、頭が熱を持つ。
「……どうしたいの、坊ちゃんは」
呆れたようにフランスが言うから、イギリスはびくりと肩を震わせた。俺は、坊ちゃんに、何をすればいいの。わからないよ、坊ちゃん。言われたイギリスは、ただただ首を横に振る。言えない。言わない。イギリスの唇から言葉が出ない理由は、そのどちらとも違う。
ならば何故。問われても、きっとイギリスは首を横に振るのだろうけれど。
「……坊ちゃん」
フランスの熱い掌がイギリスの頬を包んだ。綺麗な蒼がイギリスの瞳を捕えた。それだけでイギリスの世界は簡単にフランスに塗り潰されてしまうから、イギリスはかたりと唇を震わせる。
ふらんす、おれは、
開きかけた、かたかた揺れる言葉を紡ぐ唇は、フランスのキスによって塞がれる。
ねぇ坊ちゃん。
言葉に出来ないのなら、こうやって。
「触れて伝えればいいんだよ」
不器用なイギリスを笑うようなフランスの声を聞いて、ああなんだ、とイギリスは眉尻を下げた。情けないような恥ずかしいようなでなんだか笑えてきて、イギリスはフランスの頬に触れてみせる。
(――伝わるだろうか、)
これで。
蒼に染まった世界で、イギリスは思う。伝われば、いいんだけどな。首を傾げ、イギリスはフランスの唇にキスを贈った。
『あいしてほしい』
音のないそのイギリスの願望は、フランスの舌に絡めとられた。