忘れてしまった。
イギリスがぽつり呟くから、フランスはどこか泣きそうな顔で、小刻みに揺れる固めの金糸を解すように撫でた。

多分、あれは悪いことだったんだと言って、イギリスは自らの肩を抱きしめた。国としての優先順位を、きっと間違ってしまったのだと。冷たい空気に溶けた声は、隣にいるフランスにはしかして、全て届いてしまう。目を合わせられない代わりに声ばかりが伝わる二人のいつもの距離が、今日ばかりはフランスにとって酷く厭わしいものである。
雨の多い隣国はいつだって傘を必要としていて、だからという訳ではないが、それでもフランスはイギリスの隣にいた。喧嘩と握手を繰り返し、別離と逢瀬を繰り返し。

「なぁ、」

教えろよ、フランス。
言ったイギリスの声は酷く掠れていて、フランスは一瞬だけ目を閉じ、イギリスの頭を撫でる。イギリスの乾いた頬にキスを贈る。
それでもイギリスは、教えろよ、とフランスに言い続けた。物分かりの悪いフリをした。

「忘れちまったんだよ」

誰かを愛する方法を。
イギリスはぽつり呟いて、フランスの背中に腕を回した。力一杯抱き寄せて、甘い匂いのする胸に顔を埋める。同時に、フランスの背中に爪を立てた。

「なぁ、フランス」

あいするって、なんだっけ。

その問いに、答える者は、いない。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -