「よぉ」
片手を上げて軽く挨拶。
ボロボロの風体で顔を上げたイギリスは、俺を認めて呆けた顔で名前を呼んだ。
「――…フランス」
他人を幸せにするってのはどうにも骨の折れる作業だと、俺あたりは思う。精一杯やったところで相手が些細なことで蹴躓けば、それでみんな水の泡って訳。
「アメリカに、独立されちまった」
強がりだとはっきり分かる、(泣き過ぎた所為か)掠れてしまった声で、いつもより柔らかく俺に語りかける。
こういう時にコイツの意地っ張りな性格は厄介だと思う。
「……最後の最後で撃てなかった。アイツをリードする手綱を…放しちまった」
全く、情けねー話だよな。
力なく笑うイギリスの目には何日も寝ていないような隈があって。
「もういいよ」
俺は制止の声を、上げた。
それなのにイギリスはヘラリとらしくない笑みを浮かべたまま「聞けよ」と言った。
「今は少しでもアイツの話をしておきてぇんだ。アイツと過ごした時間が――嫌な思い出にならないように、さ」
痛々しく笑った彼は、目尻に涙を溜めていた。元々貧弱な身体が一層痩せた気がする。
こんなにボロボロになってまで、イギリスはアイツを想う。
「解ったよ」
お兄さんが何でも聞いたげよう。
お前さんがまた笑ってアイツと対峙出来るまで。
お前さんが、心から幸せだと言える日まで、いつまでも、何度でも。
お兄さんはいつでも坊ちゃんの味方なんだから。