メシでも食ってくか、と問われて、フランスはいやいやお構いなく、と慌てて首を振った。出されたものを平らげるのは仕方ないことだ(それが味覚音痴な恋人を持った者の宿命だとまでフランスあたりは思う)が、これから準備するというなら話は別だ。愛に生きるフランスだって、命は惜しい。歴史あるフランス様の死因が恋人の手料理で食中毒だなんて、とても笑えない。
でもそうなったら完全犯罪だよね。だって、毒物とか検出されないし。
フランスは縁起でもないことを考え、やだやだと自らの頭をはたく。有り得るから嫌だ。
「おい、」
なに百面相してんだよ、とイギリスがフランスの顔を覗き込むから、フランスは軽く笑って何でもないよ、とイギリスの頭を軽く撫でた。イギリスは頭を撫でられると、いつも決まって嫌がるフリをするのだが、頬を赤く染めて手を払おうとする姿が可愛いので、フランスは気にせずに固めの金糸を崩していく。これもフランスにとって、一種の愛情表現だ。
「ん?」
それ、なに、坊ちゃん。
フランスは目を丸くしてイギリスの腕に抱かれているお盆を見遣る。乗っているのはイギリスお気に入りのティーカップで、並々と注がれた液体はイギリスお気に入りの紅茶ではなかった。
「食欲ねぇんだろ」
だから、と差し出されたそれからは微かなハーブの香りがして、それが、フランスはああもう!とイギリスを抱きしめた。不器用に、それでもこうしてたまに見取れるイギリスの優しさ、気遣いが、フランスは堪らなく好きだ。
「坊ちゃん、好き。大好き」
愛してる。
言ったフランスはイギリスの首筋に顔を埋めて、愛の国らしい、多様な睦言を囁いた。
「おい、こら」
愛の安売りしてんじゃねぇよ。
言ったイギリスも真っ赤になった顔を隠すようにフランスの首筋に顔を埋めながら、広い背中にゆるり腕を回す。
「ノンノン。お兄さんのは愛の無料配布だよ」
坊ちゃん限定のね。
くすくす笑ったフランスに嘘つけ、と言って、イギリスもまた、朗らかに笑った。
「お前のは立派な押し売りだろ」