例えばその唇から発せられる言葉が、声が、全て自分に向けられるものだったなら。
どんなに良かっただろう、とイギリスは溜め息をついた。

ふよふよと明滅する、自らの友人に「疲れた」と一言告げて、イギリスは寝室のドアにしっかりと鍵をかけた。人間ではない彼らには全く効果のない仕切りだったが、鍵をかけるという行為は拒絶の意でもあるので、きっとそれだけで察しの良い友人は、なるべく寝室から離れて、庭の薔薇に溜まった夜露で入浴でもするだろう。イギリスは考えて、苦笑した。
拒絶、拒絶だなんて。
酷いことが、言えたものだ。イギリスが辛いとき、悲しいとき、必ず傍にいて励ましてくれたのは他でもない、彼らではないか。そう自責しても、イギリスは鍵を開けたりはしない。
震える声で、優しい友人達に「ごめん」と呟いて、冷たいシーツに頬を押し当てる。シーツからは太陽の匂いが、した。

「ん、」

イギリスは自身を、かなり淫蕩な性質であると知っている。抱いた女だって、生々しい話、抱かれた男だって、優に三桁に上るはずだ。はず、というのは、イギリス自身行為にあまり頓着がなく、寝た相手のことなどいちいち覚えてはいないからなのだが。
しかしたった一度だけ。
相手の息遣い、指の形、中を暴れ回るときの癖、眉間に皺を寄せた回数に至るまで、全く、忘れられないセックスがあった。

「ん、ぁ…フラ、ン…っ」

舌足らずに名を、溢れそうな想いと共に吐き出して、イギリスは自らの恥部に、指を刺し入れた。ローションに塗れた指を、本来排泄以外の用途には使われない後孔は、易々と飲み込んでいく。寂しそうに口を開けたそこは、酷く熱かった。

「ふぁ、あ、んぅ……ッ」

もうとっくに知れている性感帯を焦らしもせずに撫で上げて、イギリスは背をのけ逸らせる。記憶の中の愛撫はもっと巧妙にイギリスの身体を震わせたはずなのに、イギリスにはそれを真似するだけの器用な指先はない。

「ひ、ぁっ、フラ…ン、ふぁあ…っ」

不器用な切ない愛撫でも、自分は良いらしい。引っ切りなしに痺れが走る頭の端で考えて、イギリスは自嘲の笑みを浮かべた。
求めているのは、あのいけ好かない髭面の、情動的な愛撫だけだというのに。

「…っ、あぁ、ン、」

フランシス。
甘く掠れた声で愛おしい隣国の名前を呼んで、イギリスは白い欲を吐き出した。力無くベッドに沈み込んで、肩で息をして。
己の吐き出したそれを、舌に運ぶ。

「………まずい」

まずいよ、フランシス。
言ったイギリスは、目を閉じて、まだ熱っぽさの残る溜め息をついた。


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