神様の悪戯か、はたまた。
ムカつく、とイギリスは小さく悪態をついた。多分それは八つ当たりのようなもので、目の前の、イギリスを見つめてにやにやと笑っている男には、何の罪もない。
何度も何度も繰り返し続けてきたその言葉は、霧がかかったようなイギリスの胸を楽にはしなかったけれど、それでもイギリスはただただ小さな悪態をつき続けた。
「…ばか。髭。ワイン」
「うん、別に良いけどね」
でもワインは悪口じゃないよ?
そう言ったフランスはやはり笑っていて、イギリスは余計にその特徴的な眉の間に皺を作ってしまう。唇も心なしか尖ってるように見えて、フランスは肩を竦めた。
「どうしてご機嫌斜めなのかな」
俺のお姫様は、と言って頭に置かれた手を、イギリスは小さく「姫じゃねぇ」と言い、払った。しかしその顔が拒絶を示すものじゃなくて、どこか拗ねたようなそれだったからフランスはやはり笑ってしまう。
そんなフランスを見て、イギリスはクソッと心の中で毒づいた。
「ほんとに、綺麗な色…しやがって」
ぽつり。
思わず、という風に漏れたイギリスの言葉。耳聡いフランスがそれを聞き逃す筈もなく、緩んでいたフランスの唇がより一層深く弧を描く。
「うん? 坊ちゃんはお兄さんのどの部分を綺麗だと思ってるのかなぁ?」
にやにや笑うフランスに、困ったのはイギリス。慌てて否定の言葉を紡いでも、フランスは当然のように聞き入れない。クソッともう一度が毒づく。そうしてフランスの無防備な唇を、イギリスの唇が奪った。
「っんとに、」
ムカつく。
言ったイギリスの唇がフランスの瞼を掠めたから、フランスは驚きに固くした表情を緩めた。
瞼へのキスは。
「憧れ、かな? 坊ちゃん」
そのフランスの言葉が当たっていたから、イギリスは「ばかぁっ」と言ってもう一度フランスの瞼に口づけた。
その綺麗な、海色の瞳を見る為に。