「何で、俺なんだよ」
突然。それはもう全くもって前触れのない、初期微動をすっ飛ばして主要動が最初にきてしまったような衝撃。
そんな切り口で、イギリスはフランスに質問した。何で俺なんだ、と。
「…坊ちゃん、それ」
どういう意味?
数瞬後に返ってきたのは、フランスの怪訝そうな顔。だけど見つめたイギリスの瞳が泣きそうに潤んでいたから、フランスは皺の寄った眉間に手をやった。思わず漏れてしまった溜め息にイギリスがびくりと肩を強張らせる。
「それは、何、俺とこうしてるのが、嫌ってこと?」
言ったフランスはミルクティー色の髪に顔を埋めている。イギリスからはいつも清潔な石鹸と甘い紅茶の匂いがするから、フランスはこうしてイギリスを抱きしめるのが好きだ。胸いっぱいにイギリスの匂いを吸い込んで、吐き出す。フランスは「どうなの」とイギリスの小振りな耳に吹き込んだ。
「…っちが、う」
真っ赤になってイギリスは否定の言葉を紡ぐ。そういう意味じゃ、ないんだと。ふるふる首を振るから、固めの金色が散る。
ならどうしてそういうこと言うの。言ったフランスは少しだけ離れて、イギリスの目を見つめた。その真っ直ぐな視線に堪えられなくなって、イギリスは俯く。
「言わなきゃ解んないよ、坊ちゃん」
ねぇ、とフランスはイギリスの頭を撫でた。イギリスは言いたいことを素直に言わないから、本音を聞くのには多少の根気がいる。今も昔も、ずっとそうだ。フランスは苦笑した。
イギリスの言いたいことを当ててやるのは簡単だ。しかしそれでは意味がない。
「坊ちゃん」
顔、上げて。
フランスに言われて上げられたイギリスの頬は、涙に濡れていた。
「不安、なんだよ! お前が、離れてくんじゃ…ないかって…っ」
そんなの、嫌なんだ!
紡がれた叫びがフランスの考えるイギリスの本音と全然違わなかったから、フランスはまた苦笑してしまった。全くもう、この坊ちゃんは。
そんなこと、ある訳ないのに。
「…ほら」
フランスは苦笑したまま、イギリスからまた距離をとった。その意味が、イギリスにはよく分からない。分からないから首を傾げると、フランスはゆるりと手を広げた。
「おいで」
たまには、坊ちゃんから求めてよ。
言ったフランスの笑みがあまりにも優しかったから、イギリスは唇を噛んでその広い胸の中に落ちた。ひくっ、とイギリスの喉が小さく鳴る。
「…坊ちゃんは、どうも後ろ向きだから」
この体温が、嘘じゃないって、覚えてて。
フランスは言って、無防備なイギリスの首に軽く口づけを落とした。