不器用なフリをした。
それがどんな結果を招くか、知っていたくせに。
くだらない、と手を振り払ってみせれば、苛立ったように引き寄せられる。痛いほど手首を掴まれて、アーサーはムッと相手を睨んだ。
「はなせ」
お前には、何も関係ない。
そう言って歩き出したアーサーは、突き放すようにフランシスの手をするりと抜けた。
じゃあな。お元気で。虚勢のように絞り出した冷たい声は思いの外震えたり裏返ったりせず、ばらばらと空中分解してフランシスに無数の傷をつける。じくじくと、まるでそこに心臓ができたみたいに脈打つ傷によって、自分が今ここで生きていることを嫌でも実感させられる。ここで生きていかなきゃいけないことを、理解させられる。
夢なら、どんなにいいか。フランシスはぽたり涙の代わりにそうこぼして、ぎゅっと唇を噛んだ。
「アーサー」
行かないでよ。
そう言ってしまえたら、どんなにいいだろう。フランシスは、いつだってアーサーのことが好きだったのに。
引き止める代わりに名前を呼んでも、二人の関係は何も変わらない。
「意気地なし」
ぴたりと足を止めたアーサーが言うから、フランシスはぐっと言葉を詰まらせた。フランシスだって、本当はわかっている。行かないでって言って、抱きしめて、愛してると言えたなら。
きっと変わっただろう。誰よりも何よりもアーサーがそれを待っていることを、フランシスは知っている。
それでも、手は伸びない。
「ごめんね」
愛してるの変わりにそう言ったフランシスに、アーサーはもう一度「意気地なし」と言ったのだった。