失敗した。
しくじり、誤り、間違って、失ってしまった。何をどう失敗したのかはわからないけれど、とにかくどこかで何かを過った。
あるいは何も損なってはいないのかもしれないけれど、少なくともイギリスはそう思った。
ああ、失敗した。

その手をとらなければ良かったとイギリスは言ったのだ。高くて低い体温を知らなければ、よかったと。
そうすれば下らないことで一喜一憂することも、なかった。同じ香水を使う奴とすれ違ったところで、目で追うことなんてなかった。ああもう、失敗した。イギリスは呟いた。

「こんなに、」

こんなに痛いなんて。
誰が想像し得ただろうか。その手を、声を、髪を、仕草一つ一つを思い出すだけで、ぷつり切れてしまいそうになるなんて。じりじりと、焼き切れてしまいそうになるなんて。
何がって、理性が。

「………フランス」

溜まった熱を吐き出すように。
足りない熱を探し求めるように。
そっと呟けば、じぃんと痺れる頭の奥が、厭に気持ちいい。
例えば、目が合う。例えば、笑ってくれる。例えば、好きだって言って抱きしめてくれる。例えば、愛してくれる。
それだけで泣きたくなるほど幸せなのに、イギリスはもっともっとと手を伸ばす。それはとても罪深いことだと思う。
でも、だから、失敗した。
だって、貰った愛を返してあげることが出来ない。

「こんなに…、」

こんなに好きなのに。
伝えなければ良かったとイギリスは言った。通じ合わなければ、愛を注がれることもなかった。
フランスはずるい男なのだ。
なんでもわかっているような顔をして、イギリスを許してしまう。もっとわがままになってくれないと、困るのに。

「好きだ。好きで、好きで、そんで、愛してる」

なのに。どうして、言えないのだろう。
イギリスは少しだけ俯いた。
フランス。フランス。

「愛してる」
「知ってる」

知ってるよ、坊ちゃん。
背後から聞こえた声に、イギリスは勢いよく振り返った。うそだ。そんな、まさか。
振り向いた先にいたのは、大方の予想通り。
額に手を当て俯いた、イギリスの恋人。
坊ちゃん。

「そういうの、本当に反則だと思うよ」

お兄さん、泣いちゃいそう。
そう言ったフランスの目が本当に潤んでいたから、イギリスは何も言えなくなってしまった。反射的に振り上げた手も、力なく落ちる。

「…アーティ」

俺も、愛してる。
ぼたり、落ちたその言葉に。
真っ赤になったイギリスはまた、失敗したと呟いたのだった。


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