今まさに、命を握られている。
無理矢理押し込めた熱がびくり跳ねる度に、しかしこれは殺し合いなどではないと思い知らされる。
知りたくなかった、とイギリスは呟いた。
だけど、もう遅い。

ん、と、あまい声が落ちた。触られたところに、静電気みたいな愛がぴりぴり火花が散らすから、イギリスはいやいやと首を横に振る。そんな風にしたら、痺れて、痺れて、動けなくなる。
触れているのは舌で、触れられているのも舌。だから、殺そうと思えばいつでも殺せるのだけれど。憎らしくて恨めしい、目の前の仇敵を、殺せるのだけれど。

「アーティ」

あいしてる、とフランスが言った。
その瞬間、その声に触れた耳が、びりびりと痺れる。身体中の血液が沸騰したんじゃないかと思うくらいに、体温が上がる。
イギリスは何だか苦しくなって、ぱくぱくと、口を金魚のように開閉した。これじゃあ、水槽いっぱいに張られた愛で、溺れてしまう。
たすけて、と追い縋るようにフランスのシャツにしがみついて、ふるふる身体を震わせた。背骨に甘くて愛おしい電流が流れる。
例えその気がなくたって、フランスは確実にイギリスを殺そうとしている。溢れんばかりの愛で、殺そうとしている。

「愛してる」

子供のようにそう繰り返すフランスの、綺麗な髪を指に絡めた。すぐに逃げていくそれはまるで、持ち主をそっくりそのまま表しているようで、イギリスは苦笑する。
イギリスは知っている。フランスが、注いで零れた分、愛を返して欲しがっていることを。

「俺、も、」

愛してる、という言葉は音にならなかった。持ち前の意地っ張りがひょっこり顔を出して、素直な気持ちを形にすることを阻んだ。
それでも腐れ縁。言いたいことはどうやら無事に伝わったようで、イギリスは真っ赤になった顔を俯かせた。
死と言うなら、これがそうだ。じっくりと溶かされて、いつかフランスのことしかみえなくなる。 案外今でもそうなのかもしれないけれど。

「愛してるよ」

アーティ。そうやってフランスが笑うから。
イギリスの、譲れない部分がじわり死んで。そうして。
どんどん、イギリスはフランスしか見えなくなっていくのかもしれなかった。


これは、殺し合いなどではない。
愛し合いなのだと、イギリスはそんなこと、知りたくなかった。



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