殴る。殴る。殴る。
それ以外の触れ方なんて、知らない。
――知らない。

喧嘩というのもおこがましい、呼吸するような殴り合いが終わって、イギリスは満足げに溜め息を吐いた。勝者は自分。物事は大体セオリー通りに帰結するのだから、当然といえば当然なのだけれど。

「張り合いねぇな」

誰に聞かせる訳でもない呟きは、どこか寂しげに響いた。何だか悲しそうに顔を歪めたイギリスは、しゃがみ込んで、頭を抱える。
飢餓している。枯渇している。とかく、磨耗していく。
ああ、物足りない。
今にも泣き出しそうな心はしかし潤いという潤いを全てなくしてしまって、涙を作ることなど到底出来ない。

「…ばか」

いつになく真面目腐った顔のフランスに「好きだ」と言われたその日から、イギリスの周りの色々なことが一気に変わってしまった。
目尻にちらついていた、それでも気づかないフリをしていた、曖昧でよくわからないものに「愛」という形が与えられた。たったそれだけのことで、こんなにも変わるなんて誰が予測し得ただろう。
突きつけられてしまってはもう、見えない、聞こえないと、嘘がつけなくなってしまう。それがわかっていて告白をしたのなら、フランスはなんて残酷な男なのだろう。
あの日から、フランスはイギリスを本気で殴ることすらしなくなった。

「…フランス」

思わず零した名前が意に反して甘い色を含んでいたから、イギリスは舌打ちをする。
気づかないフリをしていたのは、フランスの気持ちだけではない。そんなこと、誰に言われなくてもわかっていた。
イギリスはいつの時代も、フランスが好きだったのだから。

(ああ、でもまだ)

わからない、とイギリスは言う。
殴る以外に、フランスに触れる方法がまだ。
イギリスには、わからない。
だけどイギリスには必要なのだ。フランスの、あの、適温の体温が。
だから。

「もう少しだけ、待ってろ」

落ちた言葉に、フランスは寝返りをもって返答した。
イギリスには、それが頷いたように見えたという、ただそれだけの話。

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