優しいと酷いが、同居している。
ずっとずっと、気が遠くなりそうなほど長い間、そんな矛盾を孕んだ見解がイギリスの、フランスに対するおおよその評価だった。
イギリスは彼の、全てをわかった気でいた。フランスがイギリスの機微に敏いように、イギリスだって、不本意ながらフランスの全部を余すところなく知っているつもりだった。

かちり鳴った奥歯を無理矢理噛み締めて、イギリスはその持論がてんで的外れであったことを知る。とんだ勘違いだ。壁に押しつけられた腕が、ぶるり、少しだけ震えた。
ああ、的外れも甚だしい。アイツのことならなんでも知っていると誤ったのは、驕ったのは、間違ったのは、一体いつから?

「あいしてるよ」

息の根を止めるみたいに優しい声でフランスが言うから、イギリスはひくりと肩を強ばらせる。
いやだ、そんなの、うそだ。そう言って耳を塞いでしまえたら。
そうは思っても、自由を奪われた手では耳を塞ぐことはおろか、その気取った面を張り飛ばすことすら出来やしない。

「いやだ」

だからイギリスは首を横に振る。自由のきかないその腕の代わりに、否定の言葉を紡ぎ出す。それは明らかな拒絶で、それは明らかな怯えだった。
フランスはイギリスのそんな動作も表情も、生まれる前から知っていたと言うように、婉然と微笑む。
綺麗に笑ったその顔が、それでもイギリスには、何故かいまにも泣きそうに見えた。ただ、それだけのこと。

「イギリス、」

あいしてる。
ほんとだよ、とフランスが懇願するように言うから、イギリスは唇を噛んで俯いた。
泣きたいのは俺の方だ。悲しそうな顔一つしていないフランスを見ることすらできないイギリスはそう、心の中だけで呟いた。

「お前の愛は」

まやかしで、冗談で、いつだって、吹けば飛ぶような、中身のない大嘘だ。
本物じゃない愛なんていらない。言ったイギリスはフランスの手を振り払った。
やろうと思えば、いつでもできたのだ。あまりにも触れた手が冷たかったから、ただ温めてあげたくなっただけ。
イギリスの知らないフランスを、抱きしめてあげたくなっただけ。
だけど受け入れることは、堪らなく怖かった。
イギリスはくるりと踵を返して、決してフランスを振り返ることなく走り去った。

残されたのは、まやかしでも冗談でも大嘘でもない愛を抱えた男。
背けられた目が、もう合うことはない。

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