人と会った後の駅は、何だか寂しい。先程までの喧騒は何処へやら、誰もいないホームで一人電車を待っている。ああ虚しい。俺はぽつりと呟いた。その呟きは静かで暗い駅に、何の波紋も残せなかった訳だが。
考えるのも面倒臭くなって、俯ていた俺が溜め息を吐いて視線を上げると、そこには見知った男の顔があった。
ムカつく程に整ったその容姿は、ついさっきまで一緒に飲んでいた、フランシスのものだ。
ばっちりと目が合ってしまって、何となく目が離せなくなる。しんとした駅では、何だか二人だけの時間がゆっくりと流れてる気がして。
あぁ飲み過ぎたかも知れない。俺は思って、フランシスを見つめる。
あっちだって俺に気づいていて、ふわりと包むような微笑を浮かべていた。なんだよその笑みは。唇だけを動かして、眉を寄せる。
ぱくぱくとフランシスの唇が動いた。俺の真似をして何かを伝えようとしているのだろうが、俺にはそれが読み取れない。
何度も何度も、フランシスは唇を動かす。飽きもせずに同じことを伝えようと。

「聞こえるように言えよ!ばか!!」

痺れを切らしたのは俺だった。誰もいない向かい側のホームに向かって、怒鳴る。
それにフランシスは笑って、片頬に手を添えながら高らかに宣言した。

「お前が!好きだよ!愛してる!!」

アーサー!と呼んだ声は聞こえなかった。俺とフランシスの間、俺のホームに本日最後の電車が滑り込んだ。
ガタンガタン。俺の前で電車は止まって口を開ける。誰もいない車内。
俺は電車に乗らなかった。
代わりに駆け出して、向かい側のホームを目指す。半分ほど階段を上ったところで、フランシスと目が合った。
何してんの、終電行っちゃったよ?
フランシスの唇が、動く。

「聞こえなかったんだよ、さっきの」

電車来る前に、何か言ってただろ。
俺はにやりと笑う。分かるだろ?お前なら。そういう意味を込めた笑み。

「だからもう一回、言えよ」

お前ん家でな。
言った途端、フランシスはからからと笑った。すたすた階段を下りてきて、俺がいるところの、一段上で足を止める。

「承りました、お姫様」

そうしていつもより、身長差のあるキスをした。


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