…………。
まあ一応……調べてはきましたよ。仕事ですからね。
それなりに有益な情報もあったし、当時を知ってる爺さんも見つかりましたし。探偵なめてもらっちゃ困りますよ。
だがまぁ、こう言っちゃなんだけどね。
世の中、知らないことの方が幸せなこともあるってもんですよ。
…………本当に聞かない方がいいと思いますよ。
それでも、いいんですね……?
………。
……………。
じゃあ、手短にいきましょうか。
こいつが、『青い屋根の家』の正体ですよ。
調査依頼『青い屋根の家』
依頼人、島谷孝介、四二歳、会社員。
内容、青い屋根の家を探して欲しい。
依頼人がその家を見たのは子供の頃、ちょうど三十年前らしい。しかしこれがなんとも奇妙な依頼だった。
その青い屋根の家というのは夢の中で見たらしく、それきりお目にかかることはなかったとか。屏風の虎じゃあるまいし、俺は新手の冷やかしだと思って不機嫌になる。
作り話に決まってる。そう思って彼の言葉に耳を傾けていたが、なかなかどうして、創作にしては興味深い語りだった。
金は出すと言うし、その村は本当にあるとのことで、気が向いた俺は言われた通り調査に乗り出した。
そこは名枝(なえだ)という小さな農村だった。彼が言うには、この村に唯一流れる川沿いに、その家はあったと言う。
依頼者、島谷孝介は三十年前に、その川にかかる橋のそばで倒れているのを発見された。熱中症だったらしいが、大事には至らなかったようだ。
その翌年からしばらく、この村には来なくなったようだ。彼の母が亡くなってから、毎年必ず預けられていたのに、ぱったりと。
それには理由があった。彼らが去ったその直後、この川で水死体が上がったからである。
被害者は松尾一男(マツオカズオ)。享年三十七歳。死因は溺死、川に落ちたと見られている。その他の外傷はなく、警察は事故として処理したそうだ。
面白いのはこの松尾という男、依頼者の話に出てくる「おじさん」に当たる人物だったのだ。松尾は依頼者が倒れているのを発見しており、さらにはその父親とも同級生だったとされている。
彼の死に不審な点はなく、不幸な事故だったのは間違いがなかった。しかし、依頼者はふとあることを思い出し、それがずっと気になっていたと言う。
よく考えたら、変なんですよ。あの人、村にしばらくいなかったって祖母は言ってたんです。でもそんなはずがないんです。
彼の話は俺の耳を惹きつけた。松尾は依頼人を助けたあと、すぐにこう言ったそうだ。
そこはずっと手付かずだ。川土手は危ないから、誰も使わなくなった。
確かにこれはおかしい。村を長い間開けていた松尾には、土手がいつからいつまでの間、整備されていなかったのかを知るはずがなかったのだ。
人伝に聞いた可能性、祖母が知らないだけという線もあるが、あの土手が村人にとってそこまで注目される場所ではなかったことから、わざわざ話題に上るとは考えづらい。後者も、帰省したならすぐに祖母にも伝わるはずだと依頼人は言う。昔から家族ぐるみだった島谷と松尾の一族が、その話をしないはずがなかった。
松尾がどうしてその川土手が整備されていないことを知っていたのかという謎は結局解けないまま、俺はひとまず、例の青い屋根の家を探すことにした。
噂の川土手はその時も草木で覆われていた。この三十年でより酷くなっているのか、とても入っていける状態じゃなかった。
俺は持ってきた長靴を履き、川の端に手をつきながら、話にあった場所へと向かった。途中転んで水浸しにもなったが、真夏の暑さにはちょうどいい。
泥だらけになりながらも、俺は妙な高揚感でぬかるみを踏んづけていく。夢にあった家、それが現実ではどんな姿をしているのか……だが、俺の予想は裏切られた。
行けども行けども、建物らしきものはなかった。ついには川も川土手も茂みで覆われて進行不可能となり、俺は絶望する。成果もなく、来た道を戻るのか
と。
その日は村長の家で泊まらせてもらった。彼は神雲陽二(カミクモヨウジ)。この村出身で、父がこの村にあった廃校先生だったと言う。
来客が珍しいのか、こんな他人の俺を、しかも田舎を嗅ぎ回る変人を親切にもてなしてくれた。ろくでなしを自覚する俺にとっては、涙を禁じ得ない。
酒が回ってきた頃、俺はついあの家の話をしてしまった。『むかしここに預けられてた子供が、青い屋根の家を見た』って。
すると村長は「もしかしてあれのことか……」と言って、何故か奥へと引っ込んでいった。
しばらくガサゴソと奥から物音がすると、彼は一枚の筒を持ってきた。卒業証書とかを入れるアレである。
「父はあの学校が好きでね。廃校になるって聞いた時はそれはもう落ち込んでました。だから記念にってんで、当時生徒が描いた絵を後生大事にしまっておいたんだそうです。その中でもこの絵だけは、大層大事にしてまして……」
俺の酔いは一気に覚める。
その絵は、間違いなくあの『青い屋根の家』だった。いや、子供が描いた絵だ。正直言って上手いとはいえないが、確かにそれが件の家であることに間違いはなかった。
青い屋根の一軒家、その屋根の上に座る少女。そして、写真には夥しい数の『丸』が描かれていた。
それはあの話に出てくる、あのシャボン玉のようで……。
「これを描いた子の名前って、わかります?」
「ええ、『キミエ』って子ですよ。黒髪の可愛い子だって父は言ってましたね」
キミエ……それがあの夢に出てくる少女の名前なのか。そうなんだとしたら……俺は失礼だと思いつつ、彼女のその後を尋ねる。
「もしかして、その……亡くなったりとか?」
「ええ、残念ながら。父も酷く落ち込んでしまって……」
やはり予想は当たっているようだった。しかし俺はその時思い出した。そういえばここに来る前に、ある下調べをしていたことに。
それはこの村で起きた事故や事件で死んだ人間の調査だ。話を聞くに、心霊の類だと思った俺は、最初にめぼしい女の子をそこで探しておいたのだ。結局それらしい女児の死亡事件はなかったらしいということだけがわかった。
そう、誰も死んでいなかった。少なくとも俺が調べた限りでは。
「父が良く言ってましたよ。『やっとまともに子供ができたっていうのに』……って」
「え……子供?」
子供とは、そのキミエの子供だろうか?どうにも話が見えないので、俺は一から説明を頼み直した。
すると、帰ってきたのは驚きの内容だった。
「キミエさんはこの村出身の方と結婚されて東京に行かれたそうですよ。中々子供に恵まれなくて、それでもやっと男の子が生まれたとか。確か名前は……コースケ?」
その名前を聞いて、俺の心臓は跳ね上がる。コースケとは、依頼人の島谷孝介その人のことだった。彼の亡くなった母親、島谷キミエの描いた絵が、『青い屋根の家』の正体だったのだ。
「よく言ってたそうですよ。『この家で三人で暮らすんだ』って。歌を歌って、絵を描いて、お菓子作りも……」
「ちょっと待ってください。その三人っていうのは……?」
「彼女の幼馴染たちですよ。一人は先ほど言った旦那さんの幸太郎さん。もうひとりは……」
村長はそこまで言って、彼は口を重くした。俺もその先がなんとなくわかって、それでもちゃんと言って欲しくて前のめりになる。
「一応聞くんですけど、警察ではないですよね?」
「正直に申し上げると、俺はその孝介さんに頼まれてきたんです。『青い屋根の家』を探してくれって」
「そういうことでしたか……じゃあ……」
村長は何かを察した後、キミエの幼馴染、その片割れの名前を口にした。俺の予想はズバリそのまま、三十年前、水死体で発見された『松尾一男』である。
「キミエさんと幸太郎さん、一男さんの三人はいつも仲良しだったと聞いています。今やその三人ともが亡くなられていますが……」
そう。島谷幸太郎は今年の頭に亡くなっている。依頼人がこの事件を掘り返そうとしたのも、それが影響してのことらしかった。
死因は事故。突然だったと言う。認知症を患っていた幸太郎は、徘徊した先の用水路で溺死したようだ。まるで妻の後追いを今更するように……孝介はそう語っていた。
「しかし、三人ともが溺死というのは、少し出来すぎてませんか?」
「私も当事者ではないのでなんとも。故人の死にあれこれ憶測を並べるのは控えたいと思っています」
「おっしゃる通り」
俺は一応そう言って、この話はそこまでとなった。本当は根掘り葉掘り聞きたいが、こんな狭い村の村長を刺激して調査の邪魔をされたくはなかった。
とんだ棚ぼただ。まさか村長からここまで有益な情報を聞き出せるとは。
しかし困ったのは、結末があまりにも拍子抜けだったこと。若干気味の悪い話もあったが、『青い屋根の家』の正体は、子供の描いた一枚の絵だった。それが偶然にも、依頼人の母親だったと言う話で……怪談としては少し物足りない気もする。
だが偶然……そんなことがあり得るのだろうか。孝介があの夢を見た時、諸々の事情は知らなかったはずだ。なのに何故あんな夢を見たのか。もし幽霊の類がそれを見せたのだとしたら、夢の中の少女はキミエ本人だったのだろうか。
母が傷心の息子を想い、優しい思い出を作るために現れた
実にロマンチックではある。
これで依頼主が納得するのであれば
そう思い、俺は一晩を明かした。
翌日、帰宅しようか迷っていた俺は、ダメ元で関係者たちの家を回ることにした。これで何も見つからなければ、大人しく帰ろうと心に決めて。
島谷家にはもう人っこ一人いない。話に出て来る祖母も亡くなり、今は完全に廃屋となっている。田舎の村だ、建て壊しもされずに放置である。
川口家はキミエの実家だ。ここも数年前に引っ越しで引き払われている。こちらは家も残っておらず、土地だけがぽっかりと空いたままだった。
だが嬉しいことに松尾家だけはそこに残っていた。一男の弟、次郎が畑を継いだらしい。それで彼に青い屋根の家の話を振ってみた。
「……………帰れ」
態度はあからさま。この家について、まだ何か知っている様子だった。話したくないことを抱えていると、親切すぎるほど態度に出ていた次郎。
少し気が咎めたが、もしまだ知らない真実があるなら、それを突き止めずにはいられないのが探偵の性というものだろう。野次馬根性だとわかってはいるが、『孝介に頼まれている』と丁寧にお願いする。
その名前には弱ったのか、彼はため息をついて家に通してくれた。
座敷の一角にある仏壇。『一男』の遺影が飾られたところの線香に火を灯し、俺たちは手を合わせる。
「兄ちゃんがあんなことになったんはな、呪いじゃ」
一も二もなく、次郎は憎々しくそう言った。
呪い……一男が水死体で見つかったあの件が、誰かの憎悪に晒された結果だと、次郎は言う。
「誰かに恨まれるようなこと、したんですか?」
「もう、当時を知っとるのはワシしかおらん。じゃから言うけどな。アレは……あの家族はみんな鬼畜だったんじゃ」
「どういうことですか?」
「………子供を、殺したんじゃ」
胸に冷たい氷が入ったような……そんな気にさせられた。
子供を殺した……しかも話によると、それは単独犯ではなかったという。
あの家族……それが指すのは一体なんなのか。
「一男とキミエと幸太郎……あいつらは仲がよかった。良すぎるくらいじゃった。何をするにも、どこへ行くにも一緒。学校でもベタベタ触り合っておった。それがワシは、昔から気色悪かった」
「………まさか……」
「子供ができたんじゃ。高校に上がるかどうかって時にのう。しかも、どっちの親かもわからん有様じゃった」
次郎曰く、彼らは三人で行為に及んだという。田舎という閉鎖空間で、雑多な教育で育った彼らは、その果てに友人を身ごもらせてしまったのだ。
「すぐに三家が集まって話し合いになった。いや、アレは話し合いなんかじゃねぇ。悪党が悪さする時と一緒だ。ひと足先に知ってた俺は、その日は寝たふりして聞き耳だけ立ててたんだ」
「そこで、計画を知った……身篭った子供をどうするか……と?」
「俺一人で止めれるわけがねぇ!そんなことしたら、今度は俺があの鬼畜たちに殺されるんだ!俺は……俺は悪くねぇ!」
震える次郎をなんとか落ち着かせる。あまりにも荒唐無稽な話に聞こえたが、彼の怯えようは本物だった。
しかし、いくら婚前交渉で子供ができたとして、中絶という手だってあったんじゃないか?もし間に合わないほど胎児が成長したとしても、生まれた子供を隠す理由とはなんなのか。だが次郎はその疑問にこう答えた。
「関係ねえ!あいつらは……この村で後ろ指さされるのが怖かったんだ!三人がベタベタしてるの知ってて、それでも何もしなかったんだ!親の育て方が悪いって、爪弾きにされるんが怖くてそれで
」
「そんな理由で……生まれたばかりの子供ひとりを……?」
「そんな理由で殺せるんだ!だから鬼畜だっつったんだ!!」
俺はその時、何か途轍もなく邪悪なものを覗いた気がした。
孝介が見たと言う家。そこに一人だけ取り残されていた少女。夢の中にしかいない彼女は、誰かを待っていた。
その言い回しが、孝介の記憶通りだったという保証はない。だがあのセリフは、確かに違和感があった。
私はもう、ずっと待ってる。誰かが迎えに来てくれるのを……。
彼女は『誰か』を待っていた。それは特定の誰かとは言わなかった。その理由はわからないが、もしかすると、彼女自身も待ち人の素性をわかっていなかったからではないだろうか?
彼女が好きだと言った歌の歌詞には、こうある。『飛ばずに消えた』
と。
「俺は悪くねぇ……俺は悪くねぇ……!だから……殺さないでくれぇ……!」
次郎はもう俺の言葉に耳を貸さなかった。まるで堪えていたものが溢れ出たように、恐怖で我を忘れてしまった。
うずくまる老人の背中はやけに小さく見え、それがきっと、彼が犯行計画を耳にしていた頃の姿だったのだろうと……。
俺はそれ以上は何も言わず、彼の前から立ち去った。その足で俺は村を出る。やってきた電車に乗り、ゆっくりと田畑の間を抜けていった。
そういえば、依頼人の話では最後にこの電車から彼女を見たと言っていたな。それが幻だったのかどうかはさておき、その両側には両親らしき影もあったとか。
ムカエニキテクレタヨ。
それがキミエと一男だったのか……今となってはもう知る術はない。ただその夏、一男は死に、孝介とその父親は二度とこの村に来ることはなかった。
もしかすると父親は知っていたのだろうか。我が子
かもしれない亡霊が、今もあの家で待っていることを。
その罪悪感で、彼は村に近寄らなかったのかもしれない。あるいは本当の我が子を守るために……。
俺の報告は以上だった。
依頼人は言葉もなく、ただ夏の記憶に気持ちをやっている風だった。
定まらない焦点は、手元の資料に落ち込み、つぶやく。
「嘘みたいな話……ですよね……変な話、僕の夢の話なんかよりずっと……」
「人間、恐ろしいもんで……バレないかもしれないと思うと何をするかわかりませんから……」
「証拠もなしに……ですか……?」
「それだけ隠すのに自信があったってことでしょうか。あの田舎ですから……」
俺の言葉に依頼人は押し黙る。
そう、全ては推測に過ぎない。証拠と言えるのはあの弱りきった男の証言のみ。
だから……。
「それでも……父も母も……罪悪感は捨てられなかった……そういうこと、ですよね?」
依頼人は……孝介は複雑な笑顔をこちらに向けていた。
虚しいような、悲しいような……そんな切ない顔で。
「忘れてしまえなかったから、ずっと……だからあの日、引っ越そうとしてたんだって、今ならわかります」
そういうと、孝介は一枚の写真をこちらに差し出した。
それは青い屋根の家だった。絵ではなく、本当にある家の……物件写真だ。
「母が死ぬ前に話してた引っ越し先です。もし忘れたいだけの過去なら、きっとこんな家に住もうとは思いませんよね?」
「ここに……ご両親が……?」
「家族みんなで暮らすのが夢……夢の中のあの子も、そう言ってたから……」
孝介の予想が当たっているのかはわからない。それが希望的観測なのかもしれないと思いつつ、俺も流石に何かを言う気にはなれなかった。
「僕は思うんです。その、次郎さんが呪いだって言ってたけど、あれは全部偶然だったんじゃないかって。母さんも一男さんも父さんも……あの子に殺されたとは思えないんです。だって、あの子は誰のことも知らないんだから。生まれてすぐに、壊れてしまったから……」
親を親と認識できず、思い出の家に閉じ込められてしまった哀れな少女。それは呪いの言葉ひとつ吐かず、恨みなんて知らない顔で、きっとシャボン玉を吹き続けてきた。
孝介は、残酷な現実よりも、夢の中で見た彼女を信じたいと言った。銭ゲバ根性のろくでなしでも、その情緒くらいはわかるつもりだ。
ありがとうございました
孝介はそう言って、俺の報告書を持って帰っていった。
「………夢の中の少女、ねぇ」
もしその子が呪いを覚えたら、また違った結末だったのかもしれない。それでも亡くなった人間を見るに、彼らは十分に仕打ちを受けた気もする。
きっと何をするにしても、あの子供の存在がちらついたことだろう。だからキミエは夢に捉われ、一男はこっそり帰省していた。きっと幸太郎も……。
「しかし怨念が怖くて『青い屋根には近づくな』って言ってたのか……?存在もしない思い出の家に……」
そう思うと、なんだか笑けてきた。
やったことがやったことだけに仕方がない気もするが、怖がりすぎだろうと。もしくは彼も彼女の夢を見たのかもしれないが、だからって息子にまで注意喚起をするとは、用心深いことだ。
「それも何度も何度も……どこかの芸人じゃないんだから
」
ピタリ。そこで俺は言葉が詰まった。
そうだ。何度も、何度も言っていた。幸太郎は息子に『青い屋根の家には近づくな』
と。
だがそこまで言っておいて、彼は孝介少年を田舎の家に預けている。もし危険だと思っていたなら、そんな真似をするだろうか?
怨念よりも、都会の家に子供を一人にする方が危険だって?それは正常な人間の判断だ。だけど、彼は紛れもない異常者である。
まるで……。
「わざと……息子に青い屋根を探させようとしていた……?」
自分の呟きで、背筋に鳥肌がぶわりと立つ。我ながらなんてことを思いつくのか
だけど、もしそれが彼の目的だったのだとしたら……?
「妻は……用水路に偶然落ち込んで事故死……一男も……」
一体、どこからどこまでが偶然だったのだろう。もしかしたら最初から……なんて思うのは、考えすぎるかもしれないが。
人は何かを恐れる時、本性が出ると言う。無くしたものを取り戻そうとするもの、ただ過去の過ちに許しを乞うもの、そして……他人を差し出してでも生きようとするものも……。
全ては憶測だ。確証はない。
淡い水の中に沈むあの家は、きっと今もあるのだろう。
そこにはもう三人が、笑って暮らしているのかもしれない。
今はそこに、あの男もたどり着いていることを願うばかりだ。
案外のんびり、『四人』で屋根の上からシャボン玉を飛ばしているのかもしれない。
全てが偶然であったなら……。
屋根よりも少し高いところで……。