ブルーブルースイマーズ

 かたや、真夏の日差しに体調不良を起こして授業を幾度も欠席することになった僕。
 かたや、唯一の女子生徒という点が危惧され、クラスの授業への参加自体が認められなかった彼女。
 かくしてそれぞれの事情の下、プール授業の単位不足者限定補習授業は、参加者2名で執り行われることと相成った。

「ところで、『男子と一緒に女子一人を水着姿にするのはどうなのか?』という問題が教師陣により議論された結果、君だけがクラスでのプール授業から除け者にされたところまではわかるんだけど」
「妥当な判断だと思いますよ」
「そうかい、じゃあ教師陣も君も双方合意の上、というわけだ。……ただ一つわからないのが、僕と一緒に授業を受けることについては、どこからも疑問の声が上がっていないことなのだけれど」
「そうですねぇ」

 プールの端に腰掛けたままのあんずちゃんが曖昧に返事をして、白い脚でぱしゃりと水面を蹴飛ばした。夏の盛りを過ぎて、水飛沫を光らせる太陽もどこか穏やかな気がする。

 各自学校指定の水着に着替えてプールサイドに集合して、出欠を取ったら早々に「あとはよろしく」と言い残して消えた佐賀美先生(一度教師としての職務について、きちんとお話をする必要があるかもしれない)のことを呆然と見送ってから二人で顔を見合わせて、とりあえず規定通りのプール授業をなぞることにしたけれど。
 シャワーを浴びたり目を洗ったりして、準備体操も二人でこなし、そのあとはただ怠惰に水と戯れるだけの時間になった。
 僕は三奇人の一人よろしく『ぷかぷか』と足のつくあたりを漂っているし、彼女はひとしきりバタ脚で広いプールをあちこち泳いでから、疲れたのか座って水を蹴る遊びに耽っている。一時間という不足分の授業時間さえ補えれば、つまるところ内容はなんだっていいのだ。

「天祥院先輩は、もう身体は大丈夫なんですか」
「ん? ああ、特に悪いところがあってプール授業を欠席したんじゃないよ。家の者が『こんな暑い日に外でプールなんて』って余計な気を回したようでね」
「大変ですね」

 言葉は素っ気ないようだが、彼女は至極大真面目な顔をしていた。たぶん、本当に大変だと思っているのだろう。同情でもなく。

「君だって大変だよ。同級生と楽しくプール授業を行うはずだったのに、学校側の事情
で僕と2人きりで受ける羽目になったんだから」
「でも私、静かなプールを先輩も独り占めできて、悪い気はしていません」

 ……泳いできます。
 こちらから視線を反らし、やけに早口で言い切るが早いか、あんずちゃんは飛び込むような勢いでプールの中に舞い戻った。じゃぱん、と水飛沫が派手に上がり、浮上した彼女は足のつかない、深いエリアへと歩を進める。
 すいすいと水を掻き分けながら僕の前を通り過ぎるとき、耳まで真っ赤になっていたことについて、都合よく捉えてもいいのだろうか。

「……やっぱり、目の毒だなぁ」

 呟いたけど、真夏の生き残りの蝉が五月蝿くて、彼女には届かないだろう。
 あまりにも眩しすぎる。くらくらする。それを嬉しいと思う程度には、まだまだ僕も青かった。

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