1
あのスバルが真っ先に結婚だなんて、正直驚いた。
なんとなくさ、あいつはずっとアイドルで、誰か一人を選ぶことは無いんじゃないかなって思ってたんだよ、俺。アイドルの恋愛ってただでさえ歓迎されないし、あいつの家、それでいろいろあっただろ。
それに、あいつはいつまでも無邪気な子どものままだとばかり思ってたからさ。ずいぶん俺の仕事も増やしてくれたし?
いや、お前ほどじゃねえよ。お前もそろそろしっかり……まあ、最近は凛月だって結構頑張ってるよな。って、なに笑ってんだよ。
だから、話し戻すけどさ。結婚したい人がいるって、女の子連れてきたときは本当にびっくりしたよ。
だって結婚って人生の一大事だし、あの落ち着きのないスバルにできるのかなってちょっと不安だったけど……。まあ相手も会った感じ良い人そうだったし、案外何とかなるのかもな!
どんな感じかって? う〜ん、大人しそうというか普通というか……。
でもさ、笑わないでほしいんだけど、なぁんか俺、あの子に会ったことある気がするんだよな。
……だから笑うなって!
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2
なんていうのかな、なんだかすごく懐かしくなったんだ。
たとえば落ち着いた声とか、笑い方とか、そういうのが胸を掻きむしりたくなるくらい懐かしくて、なんかぼうっとしちゃった。
いやいや、一目ぼれとかそういうことじゃないから! 違うから、泉さんはいい加減僕の交友関係に口出すのやめてよね! この前だってそれで……まあいいや、この話は今度ね。
そうそう、一目ぼれといえば。その子、業界の人でも近所の人でもないらしくて、じゃあどこで明星くんと知り合ったんですかって聞いたら、なんて言ったと思う?
「街で見かけて、お互い一目ぼれしたんです」、だって!
まあ相手はテレビとかで明星くんのこと知ってただろうけどさ、明星くんって意外に警戒心強いのに、その子には初対面でお付き合いを申し出たんだって! 運命感じちゃったのかなあ、ロマンチックだよね!え?いや僕はまだ……ちょっと、「だよね」ってどういうこと!?
え? うん、とっとと発表しちゃ結婚式まで済ませる予定。隠すのは誰のためにもならないって明星くんが言ってね。僕らもそれには同意見だったし。
だから今日、結婚式用の新しいスーツ買いに来たってわけ! 付き合ってくれるでしょ、泉さん?
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3
マスコミや事務所内外の対応に随分手間取ったが、俺たちの注目度を考えれば当然だろうな。うむ、俺も正直結婚は早いとは思ったが、それ以上に明星を待たせるほうが無理だと判断した。一度言い出したら聞かないやつなんだ。
それに、相手も信頼できそうな人だったしな。仕事もできそうだし、性格も良さそうだし、明星を任せるのが申し訳ないくらいだ……いやほとんど俺の想像だが。なんだかそんな気がした、などというのは俺らしくないだろうか。
ああ、二人はとても仲睦まじい様子だった。交際期間は一年ほどと聞いたが、そうは見えなかったな。十年来の親友のようですらあった。本当に明星と十年来の親友だったのは俺たちなのだが……なぜだかこちらも彼女を、ずっと前から知っているような気がするんだ。衣更も遊木も同じように言っていた。まるで、
いつか5人で、仲間として一緒に過ごしたような。
いや、笑ってくれていい。ボケたわけではないが、荒唐無稽なのは理解している。
そう、そうだ。ボケで思い出したが、今日相談したいのはその件でな。明星の結婚式で、俺は余興として漫才を披露する予定なのだが、よければ友也も一緒に……む、やめたほうがいい? なぜだ?
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4
付き合ってください。
……あはは、突然驚くよね。でも俺、なんでだろう、さっきから涙が止まんなくって、手が震えて、ついさっき見かけたばかりのきみのことを、ずっと前から探してた気がするんだ。初対面だよね、俺たち?
うん、でもやっぱり、もっと早くきみと出会いたかったって思っちゃうんだ。迷惑だよね、ごめんね、気持ち悪いよね。
そんなことないって? あ、ハンカチ? ありがとう、優しいね。
今すぐに付き合うのが無理でもさ、せめて連絡先は教えてもらえないかな。ゆっくりでいいから、俺のこと知ってほしい。それで、できたら好きになってほしいなあ。
うん? ……うん、うん。そっかぁ、きみもおんなじ気持ちなんだね。
えっ、俺のファンなの? 嬉しいなあ、サインとかしようか? ホッケ〜には安売りするなって怒られちゃいそうだけど。
あっ、そうだ。名前はなんていうの? ほら、サインに何とかさんへ〜って書くから。あんず、っていうんだね。あんず。あんず……あんず。
あはは、また涙出てきちゃった。なんでだろ?
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