不用品回収します

「なにこれ?」

 ガラスの瓶に入ったふたつの眼球は、大好きなあの子の色をしていた。

「なにって、プロデューサーですよ。あなたのぶんです」

 受け取ったそれは、どう見ても眼球。つやつやと濡れて光っている。
周りでは他のアイドルたちが、「親指の爪の先しか貰えなかった」だの、「これはどこの肉だろうか」だの、瓶詰めの肉片に対してあれこれ言い合っている。
 それを見て、スバルは理解した。ああ、あんずはすべてのアイドルに平等に切り分けられてしまったんだな、と。

「いいなぁ、お前はプロデューサーの目を貰ったんだ」
「俺のと交換しようぜ」

 近寄ってきたアイドルは、同じように瓶に詰まった赤黒い臓器を掲げて声をかけてきた。あれは、心臓だろうか。
 あんずの、心臓。どくんどくん。
 まだ、鼓動している。

「おい、どこ行くんだよ」
「あんずを探してくる!」
「プロデューサーならここに、」
「違う!」

 スバルは駆け出した。温かくて柔らかい、彼女と触れ合いたくて。心臓が動いているのなら今もあんずはどこかで生きている、きっとそうだ。
 庭園。噴水。カフェ。事務所。食堂。白昼夢のように目まぐるしく、彼女の気配の残る場所を次々と通り過ぎていく。
 ふと、学校の隅、忘れ去られたような煤けた焼却炉が目についた。清掃員が何か、大きなものを放り込もうと勢いをつける。
 いち、に、さん。

「待ってください!それ、捨てないでもらえますか!?」
「おやぁ、これですかぁ、もう必要なものなんて入ってませんけどぉ」
「俺にとっては大切なものなんです!お願いします!」
「そんじゃ、わかりましたぁ、あとはよろしくお願いしますねぇ」

 清掃員が去っていき、あとには口を縛られた大きな黒いゴミ袋だけが残されていた。近寄ると微かに動いていて、そっと表面に手を当ててみる。温度を感じた。
 ゴミ袋を引っ張るけれど、固く縛られていて開きそうにない。そこでスバルは袋に爪を立てて穴を開けると、それを左右に引き裂いた。

「遅くなって、ごめんね」

 はたして。中から、女の子が出てきた。制服、黒いリボン、上履きには滲んだ『あんず』の文字。スバルを見上げて、ちいさく首を傾げている。

「わたし、なんにもできないよ」
「うん」
「わたし、プロデューサーじゃないよ。アイドルの役に立つ部分、ぜんぶ切り取られたあとの残りかすだよ」
「知ってるよ」
「このまま捨てられちゃっても、だれも困らないよ」
「ううん」

 スバルは女の子の頬に手を添える。それは温かくて、柔らかくて、いつでもスバルの隣に寄り添ってくれたもの。かけがえのない、スバルの大切な女の子。

「俺が困るよ。一緒に帰ろう」

女の子はスバルの手に、嬉しそうに頬擦りをした。そしてはにかみながら呟く。

「見つけてくれて、ありがとう」

 スバルは、この子を喜ばせてあげたいと思った。ずっとそれだけを考えてきたと気がついた。
 どこにだって行ける気がした。

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