宙の夜は明けない

「それでさぁ、ホッケ〜ってばその日は一日中、俺のそばを離れなかったんだよ!? 怖い夢を見て不安になっちゃうなんて、意外とあいつも子どもみたいなとこあるよね〜!」

 スバルくんの言葉に、北斗くんには悪いけれど、笑いを抑えきれずに手で口元を覆った。ふふ、と耐えきれず漏れ出る含み笑いに、スバルくんが歓声を上げて大きく目を見開く。

「ああっ、あんずがすっごく笑ってるっ! 見せて見せて! 俺、あんずの笑顔がだぁいすき☆」
「あ、だめ……ふふふ、北斗くんは真剣に、スバルくんのことが、大切で……ふふっ……!」
「やっぱり、キラキラ笑顔だぁ……♪」

 優しくも強い力で両手の自由を奪われて、にやける口元を彼の前に晒してしまった。なぜかきゃあきゃあと大喜びのスバルくんを前にして懺悔する。
 ごめんなさい北斗くん。でも正直、ちょっと可愛いなって思いました……。

 アイドルが宇宙進出して、ロボットに乗って戦ってるなんて、あまりにも荒唐無稽な夢を見た北斗くん。
 さらには、スバルくんが夢の中で死んでしまったという。確かにそんな夢を見てしまったら、わたしでも不安になるかもしれない。

「宇宙進出、かぁ……。その夢に、わたしは出てなかったのかな?」
「ん〜、あんずのことは話してなかったから、多分いなかったんじゃない? 俺みたいに殺されてなくて良かったねっ!」
「したくてしたわけじゃないだろうし、責めないであげてね……。でも、そんな状況なら尚更、わたしもみんなのそばに居たいなぁ」

 何の気なしに呟いたけれども、紛れもない本心だった。
 友達が、先輩が、後輩が、大切な人たちが、暗い宇宙の向こうで戦っているのなら。わたしは傍で、それを支えていたいと思う。
 プロデューサーだからじゃなくて、わたしがただ、そうしたいと思うから。
 スバルくんは、そんなわたしをきょとんと見ていた。北斗くんと同じように笑われてしまうかな、と思ったのだけれど。

「だいじょうぶだよ」

 ぎゅう、と両手を柔らかく握られる。胸の辺りで、まるで二人一緒に天へと祈を捧げているようなかたちで。
 迷子の子どもを安心させるように、柔らかく微笑む彼は、わたしに視線を合わせた。

「この先どんな事があっても、どんなに遠くまで行っても。あんずは、俺たちの俺の隣で、同じ景色を見てるはずだから」

 スバルくんの瞳に、わたしの瞳が映っている。
 そうだった。わたしたちは、同じ夢を目指して歩いている。
 わたしの夢は、あなたの夢で。あなたにとってのそれも同じ。この先も、ずっとわたしは、あなたを守るよ。
 いつまでも、ずっと。

「……そうだね。わたし、きっとどこまでもついていくよ」
「宇宙にも?」
「……宇宙にも」
「そうこなくっちゃ!」

 頷いたわたしに、にっこりと、いつもの彼の晴れやかな笑顔が戻ってきた。
 先のことは分からないけれども、たとえどんな形であっても、彼の夢の先を見届けたいと思う。それが、わたしの夢の先でもあるのだから。

「俺たち、ず〜っと一緒だからね。あんず」

そうだね、スバルくん。

☆☆☆☆☆

 とおく、遠く、青い星が見える。
 そこを発って、もう幾年が過ぎたのだろう。
 スバルは、艦のメインシステム――その中枢の培養槽に浮かぶ、少女を見上げた。声も温度も、遥か昔に忘れてしまった。それでも二人の約束は、そこにあった。
 スバルは強化ガラスを撫でると、すべすべとしたそれに額を押し付けた。瞼を閉じて、そして、小さく呟く。
 祈るように。

「ずっと、最後まで、一緒だからね。
 ……あんず」

 夢の先は、まだ、遠い。
 少女は応えない。

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