ワルツを止めて
指先が美しいと伝えると、伏見くんは目を丸くして首を傾げる。それがなんだ
か幼げに見えたものだから、わたしは思わず笑ってしまった。
「ええと、あんずさん?」
「あっ、その……ごめんね。指を褒められたことは無かった?」
「ええ、そのようにおっしゃるのは貴女が初めてですが……わたくし、そんなに愉快な顔をしておりましたでしょうか?」
「うん、可愛い顔をしてたよ」
伏見くんは、今度はかたちのいい眉をきゅっとひそめていて、不快というよりは困惑しているように見える。普段澄ましている彼の、珍しくも年相応で可愛い表情ばかりが見られて、心の距離が縮まったみたいで少しうれしい。
思わず目に焼きつけるように見蕩れていると、指に何かが触れた。それは、気がつけば音もなく忍び寄っていた彼の手だった。筋張った白く美しい指が、わたしの幾分か柔らかみのあるそれを、ひっそりと撫でる。
5本の指ぜんぶが、爪の先から股の間までを擦りながらゆっくりと降りていく。敏感な手のひらの皮膚を焦らすように触れられるのがもどかしくて、思わず息が詰まった。
伏見くんの指は、ゆっくりとわたしの指の間を割って入ってくる。そのままぎゅうと握られてしまえば、少し柔らかい手の腹までがくっついて、もう逃げることは出来ない。蛇の捕食を想起させられる。
彼は、わたしが可愛いと思った表情のまま。
「そんなふうにおっしゃられると、わたくし、困ってしまいます」
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