どちらでもお好みで

「お姉さん、ひとり?」

 からかうような声に驚いて顔を上げる。いつの間にやら、真っ白なカッターシャツの眩しい男の子がテーブルの上に頬杖をついて、正面のソファに腰掛けてにんまりしていた。じわりと額に汗が滲んでいる。
 わたしは今まさに構えていた細長いスプーンを置いて、闖入者にメニューを差し出す。

「外、暑かったでしょう。何か飲む?」
「う〜ん、メロンクリームソーダにしよっかな。あんずはなに食べてんの?」
「いちごとチョコのパフェ。スバルくんも頼む?」
「俺はいいや、あんずに『あ〜ん』って食べさせてもらうし」
「……あげないよ?」
「くれないの〜?」

くつくつ笑いながら、スバルくんはお冷を持ってきてくれた店員さんを呼び止めて、メロンクリームソーダだけを頼んだ。……ほんとにあげないからね?

「あんずは今日休みなの?」
「久々にね。やることないからなんとなくお茶してるんだけど」
「へえ、それは良いこと聞いたな〜。俺がデートに誘ってもオッケーってことでしょ?」
「デートはしません、プロデューサーなので」

 ふうん、と生返事で、スバルくんはテーブルに置かれたコップを一口あおった。不安なほど弱々しい空調のファンが、天井でぶんぶんと生ぬるい空気をかき混ぜている。
 わたしはいつもの返事ができただろうか。呆れるように、諭すように。
 このところ、彼はずっとわたしに対してこの調子だった。距離が近いとか、スキンシップが多いとか、そういう今までの困りごととも違う。
 たまに、なにもかも見透かすような目をする彼が怖くて、落ちたら底しれないことがわかっていて、わたしはいつも通りを守るのに精一杯なのに。

「お、きたきた。あんずもバニラアイス食べる? 『あ〜ん』ってしてあげよっか?」
「それは、いい」
「そう? じゃあ、あんずのパフェひとくちちょうだい」

 なにが”じゃあ”なのかというと、結局彼はどっちだっていいのだろう。わたしが、明星スバルのおねだりを断れたことなんてないのだから。
 震える手で、銀色のスプーンにストロベリーのアイスを乗せて、彼のくちびるに運ぶ。
 ぱくりと咥えたスバルくんは、うっとりと目を細めて呟いた。

「あまい」

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