ラブコメ的プロローグ未満

 いちばん最初は、「”共演者”のプロデューサー」……を名乗る女の子、だった。”第一印象は最悪”とまでは行かなくても、せいぜい同行してきたスタッフさん程度の認識。
 「他校の女子高生」と思えばなんだか眩しくて遠かったし、「女神」とか呼ばれていると聞いた時は正直、胡散臭いと思った。夢ノ咲、腑抜けてんなあ、とも。
 それがこの春、「同じ会社で働く同僚」になった。

――――――

「あんずさん、カツ丼って作れます?」

 昼過ぎのES、社員食堂にて。
 打ち合わせが終わってから一緒に会議室を出て、なんとなく一緒に昼食をとることになった。
 べつに、わざわざ別れて食べる理由も無かったから、ほんとに、なんとなく。
 とはいえ仲良しの友だちという訳でもないし、オレはおひいさんみたいにお喋りでもフレンドリーでもない。だからこの話題も、テレビで見た料理番組を思い出しての世間話だった。街中で一般の人に「この料理は作れますか」って質問して、めちゃくちゃな料理工程を面白おかしくリポートするやつ。
 あんずさんは、鴨南蛮そばをモソモソ食んで一生懸命飲み込んでいた。多分啜るのが下手なんだと思う。こういうところは、ちょっと鈍臭い。

「カツ丼? う〜ん……とんかつを揚げて、卵でとじればいいから……作ったことないけど、多分?」
「へえ〜。オレも全く料理できないわけじゃないですけど、そこまで工程多いのは気が滅入りますね」

 自分の食べかけの牛丼を眺める。これくらいならまだ作れそうだ。

「あ〜……漣くん、漢の料理≠ンたいなやつ作ってそう」
「なんすかそれ〜?」
「こう……ガッ! と切って、グツグツ茹でるか、ジャッ! と炒めるか、みたいな?」
「それ遠回しに雑って言ってます……?」
 じっとり視線で不満を表明すると、あんずさんはなぜだか嬉しそうにした。なんでだ。
「いまのちょっと、仲良しっぽくてよかった」
「はい……?」
「最初はライバル同士だと思ってたけど、今は仲間だもんね。わたし、漣くんともっと仲良くなれたらいいなって思ってるよ」
 もちろんEdenの他のみなさんとも。
 そう付け足して、「食べるの遅くてごめんね」と再び手を動かし始める。

(仲良くなりたいのか、俺と。この人が)

 だって、そういうのは。マンガの向こうとか、そういうところにしかないと思ってた。そういう普通っぽい、まるでただの学生のような。
 馬鹿みたいに勘違いしそうになる。夢ノ咲の女神、やばい。

「……あんずさん、そば啜るの下手っすねえ」
「み、見ないで……」

――――――

 後日、あんずさんから弁当箱を手渡された。

「なんすかこれ?」
「カツ丼、作ってみたんだけど……今日のお昼の移動中、よかったら」

 男子高校生の夢か? この人。
 もちろん有難くいただいた。移動の車中でほとんどおひいさんに食われた。


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