墓前にて、この永遠の愛を誓う

 弔花に白い菊を選んだのは自分だが、いざ活けてみると、無機質で空虚な色をしたその花は彼女には似合わないように思われて眉をひそめる。
 今や冷たい土の下で白い骨となり眠っているはずの彼女だが、それでも思い出すのは、暖かな春の木漏れ日のような微笑を浮かべて、少し離れたところから俺たちを見守る姿である。
 そう、思い返せば彼女はいつも俺たちから少し距離をとっているように見えた。他のユニットにも、一番よくつるんでいた(と、今でも信じている。もちろん彼女は贔屓するような言動を最期まで見せてくれなかったけれど)俺たちTrickstarにだって。まるで遠く離れた星を観る天文学者のように、彼女は離れた場所から俺たちを結び、導き、愛してくれた。
 『アイドル』と『プロデューサー』、その線引きがしっかりしていたと言えば聞こえはいい。だが、俺たちの繋がりはそれだけじゃないと信じたかった。友情も絆も、対等に存在すると。それでも「仕事だから」と、「プロデューサーだから」と言ってあれこれ面倒ごとを背負い込む彼女を見て、いつか誰かが言った。「まるで俺たちばかりが好きみたいだ」、と。
 星は天文学者に恋をしてはいけないのだろうか?
 しかし、あんなにも熱心に見つめられたら、勘違いもしたくなるだろう。それを天文学者の方は、星が恋なんてするわけ無いと決めつけている。そんなお前が、憎らしくて愛おしい。

 あんず。

 俺たちの女神、だなんて言い続けていたら、神はお前をこんなに早く連れて行ってしまった。今更ながら俺はそれが悔しくて仕方がない。
 女神になんてしなければ良かった、なんて思っても、もう全てが遅いのだ。
 あんずが死んだのは3年前。俺たちTrickstarのライブを見に行く途中の道での、不幸な事故だった、らしい。
 その時俺たちは芸能界でそこそこのアイドルとして忙しくしており、片やあんずは経営学を学ぶと言って普通の大学生をやっていた。

「いつか、職業としてプロデューサーをやりたいから。少しでも勉強しておきたいの」

 確かに決心した目で彼女はそう言った。俺たちは道を決めた彼女を応援したし、いつの日かまた一緒に居られると信じて疑わなかった。ライブの度にチケットを送りつけ、終わったら楽屋まで来てもらっていた。普通に会うことは難しくなっていたけれど、交流が途切れることもなく。
 その日は、いつものようにチケットを送ったライブが終わっても、珍しくあんずが楽屋に来なかった。俺たちは首を傾げたが、まあ来られなくなることだってあるだろうと、メールでもしてやろうと気楽に考えていた。
 だからたまたま楽屋のテレビに映っていたニュースに、あんずの顔写真と名前を見た時だって何かの間違いだと思ったのだ。

「きょう午後4時15分頃」
「トラックが歩道に」
「業務上過失致死の」
「大学生の×××さんが」
「被害者は」

「ほぼ即死だったとのことです」

――――――

 葬式には出られなかった。バラエティ番組の収録があったからだ。
 それでも、毎年暇を見つけてはあんずの墓前に花を供えにくる。明星も遊木も、衣更もそうらしい。俺が供えた菊の前には萎れたヒマワリが挿さっていたが、こんなものを供えるのは大方明星あたりだろうと検討はつく。
 ああでも、こちらの方がよほど彼女らしいからあいつも馬鹿にはできない。白い菊なんかより気が利いた花に思える。俺も次は、女性に喜ばれるような可愛らしい花を持ってくるべきかもしれない。
 どんな花がいいだろうか、と考え始める。山茶花なんかがいいかもしれない。彼女が好きだったピンク色の、どこにでもあるけれど素朴な愛らしさを感じさせる、あの花がいい。
 白い菊なんかじゃ、愛の告白には不釣り合いだろうから。

 今年も俺はあんずの墓前で、完璧に隠してきた、誰も知らないこの胸の内を告げる。

「あんず。俺は、お前を、■■■■■」

 墓前にて、この永遠の愛を誓う。

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