我々プラズマ団は幅広い年齢層から成る、トレーナーからのポケモンの解放を目標に掲げるポケモン保護団体である。
プラズマ団には大きく分けて外部実働部、本部実働部、密働部、研究開発部の四つの部があり、この上に幹部の方、七賢人様、ゲーチス様がいらっしゃる。

私はゲーチス様の崇高なお考えとその演説に魅せられ惹かれてしまった、研究開発部に属するしがない研究員だ。

と言うのは半分表向きだ。前半は事実、後半はほとんど無駄な言葉でゴテゴテに装飾されている。
本当の私はゲーチス様のお考えに少なからずの疑問を抱きつつも、傷付けられるポケモンを見過ごせないお人好し。プラズマ団に能力を買われ、プラズマ団のために日夜研究に励む一介の研究者である。


そんなしがない研究員の横には、居るはずのない人物が肩を寄せるように座っていた。


「伊千、早く続きを教えてよ」

まだまだ未発達の幼い体躯に、透き通るように綺麗でありながら人工の光を暖かく反射する若草の髪、聞く者の心に溶け込む声を持つ少年が足を前後にバタ付かせながら先を要求する。
因みにこの続きは絵本の続きではない。
教科書を通り越した学問書の続きだ。
「あ、はいすみません。この微粒子が信号を出すと、こちらの化合物が一つも分離することなく酸化する作用が働きます」

「うん。それで?」

「通常、物質が酸化されるときには還元される物質が存在する事を覚えてらっしゃいますか?」

「もちろん。等価の基本だよ」


子供なのに子供特有の自慢気な物言いではなく、なんて事の無いように言ってのけるN様は、とても不思議な方だ。
この方の中では、世間で知られているけど人が理解することを敬遠し受け入れられていない心理を、既に常識の枠の中に組み込んでいるのだろうか。


「そうです。ところがこの微粒子の出す信号によって酸化された物質の周りには、還元されたはずの物質が存在しません。」

「それじゃあ等価が崩れるね」

「等価が崩れることはありません。等価とは宇宙の決まり事なのですから。」

「そしたらこの式はおかしいよ。」

「そうなんです。おかしいんですよ、この式は。そこで幾つかの仮定があげられます。N様、シンオウの神話はご存知ですか?」

「ディアルガとパルキア?」

「はい。これは数ある仮説を読んで私が展開したものなんですが、彼らは幾つもの世界を渡る事が出来ますでしょう?私はその世界はとても似通った平行世界だと考えております。そこには全く立場の違う同じ人間が存在していると仮定をすると、同時にこの化合物と同じ物もどこかの世界にあることを仮定することになり、その内の二つの世界を合わせて等価が成り立っていると言えるのではないでしょうか」


言い終わってから、はっとした。まるで大人相手に話しているかの様な感覚に自説を話してしまったが、この話は口頭で伝えるには少し難しすぎたかもしれない


「同じかとてもよく似た反応が別世界で同時に起きて、二つの反応の一方に偏るって事だよね。いや、二つどころじゃないかも。面白い仮説だね」

「恐縮です」

しかしそれは私の杞憂だったようで、N様は難なく受け入れてしまい、更にそこから発想を広げて真剣に論理的に説明できそうな可能性を探り出した。


「これは、上手く利用すれば世界を越えれるかもしれないね」

「まずは等価の成り立たない物質の統計を取らなくてはなりませんね。…時空と世界、どちらが先に人間の手に落ちるのでしょうか」


異世界旅行と時空旅行、どちらが先に実現するのだろうか。もし生きている間にどちらかが実現したら、是非とも旅行してみたいと思う。
しかしN様はあまり興味が無さそうだった。


「さあ。どちらでも良いからぼくは人間の居ないところでトモダチと数字と暮らしたいな」

「素敵な夢ですね」

「伊千も来るよね?」

「私は人間ですよ。良いのですか?」

「うん。伊千は特別。トモダチだから」
「ありがとうございます」


N様は隣から私に抱き付いて、最近覚えた笑顔を向けてきた。天使も逃げ出す愛らしさと言うよりも、どこか儚さを含んみ尊さを湛えるその笑顔が、いずれ天使の集う神々しさに変わってしまう日が来るだろう。
我々プラズマ団の立場からするとそれを待ち焦がれるべきなのだが、私にはそれはとても勿体ないことに思えて仕方がなかった。
許されるなら、せめて今のN様をもう少し見ていたい。



欲は人間である証拠



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ネタ練ってるときがすごく楽しかったです(^▽^*)
最近この話の妄想ばかりしていたので久々に更新。12月からちまちまちまちま打ってました。頭の中に終わりはあるのですがとてつもなく遅筆…しかも最近受験勉強で色々な言葉がゲシュタルト崩壊を起こしているので辞書が手放せません…偏差値上がれ


20120527


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